【完】真夏の校舎で出会ったのは幽霊でした。
「実は貴女にお願いがあって、声を掛けてしまったの」
それはとても綺麗な人だった。
鎖骨の辺りまで伸びたさらさらな黒髪に華奢な体。そして透き通るかような澄んだ声。儚くて慈しむかのような柔らかい笑顔。ひと言で例えるならば“聖母マリア”、そんな雰囲気を纏っていた。
まぁ、スカートから足が生えていないのだけれど。
これは現実か幻か。凝視しすぎるあまり私は話しかけられたことも忘れていた。
美術室に並んだ石膏像の様に微動だにしない私に小坂宏海と名乗った彼女は「大丈夫?聞こえているかしら?」と心配そうな面持ちで近づいてくる。
私の身体をすり抜けていく様な勢いに思わず一歩後ずさると彼女は「視えてるみたいで良かった」と嬉々とした表情を浮かべた。
「貴女のお名前は?」
「・・・こ、小泉千尋、です」
「千尋ちゃんね? ごめんなさいね、いきなり驚かせてしまって」
「い、いえ・・・とんでもないです」
申し訳なさそうに眉をハの字にして笑みを浮かべた彼女は首を傾ける。
「ふふ。幽霊なんて、信じられないでしょう?」
「いえ、そんなことは・・・ないです」
本当に幽霊らしい。