【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
5.選ぶ道がなければ
洞窟の壁を彩るのは鉱物の欠片だろうか。
細く差しこむ月光に照らされて、暗い洞窟のいたるところが星空のように淡く輝いていた。
「……ヴォルフ」
静かな地底の星空の中でわたしを抱きしめたままヴォルフはしばらく無言だったが、そのあと彼がこぼした言葉にわたしは凍りついた。
「しかし、女神の加護はどうする?」
――女神の加護。
そう、わたしが本当に聖女だとすれば、わたしの乙女を捧げた相手に『女神の加護』が移るのだ。
「女神の加護が国王のものとなれば、また国が富み、民は平穏な生活を送ることができるようになるだろう」
けれど、ヴォルフにわたしのすべてを差し出してしまったら……?
「マリアーナはどうしたい?」
「…………」
「俺は、おまえを離さないと言った。俺からおまえを奪うものは許さない、と。その気持ちは変わらない」
ヴォルフは砂地にあぐらをかいて、足の間にわたしを座らせ抱えこんだ。
「だが、俺の想いを押しとおすことが、マリアーナの幸せなのかどうか……俺にはわからない」
わたしを落ち着かせるように、ゆっくりと髪を撫でる。