【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 モーリーンは、今夜は神殿に泊まっている。
 明日モーリーンが帰ってきたら、今度は家族や街の人から何を言われるのだろう。
 泣いてはいけないと思うほど、涙があふれた。

 何か、別のことを考えなければ。

「……狼さん」

 ふと森で出逢った白狼のことを思い出した。

 綺麗な白銀の毛並み。
 ふかふかしたおなかの毛にうずもれたこと。
 厚い舌で舐められたこと。

「ヴォルフ……」

 それは見も知らぬ男の名前だったけれど、何故かあの白狼にぴったりな気がした。
 あの子は野生の獣なのに、わたしがふれるのを許してくれた。大きな体で寄り添ってくれた。
 間違いなく、この数年で一番素敵な想い出だった。

「逢いたい……ヴォルフ……」

 暗い食品庫に、虚しく声が響いた。



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