【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 いや、人生にはいろんな側面がある。
 わたしは偽物の聖女として追放されたけれど、ヴォルフと出逢えて誰よりも幸せだった。

 ヴォルフ……、ヴォルフならこんな時、なんと言うだろう。

『マリアーナが責任を感じる必要はない。女神の導きは、はたから見てもわからない。それを生かせるかどうかは、そいつ次第だ』

 そうだ。
 すべてわたしのせい、自分がこうしていたら……と責任を感じるのは、女神様を蔑ろにしているのと一緒だ。たぶん、無責任と一緒なのだ。

 わたしは学んだはず。深淵の森に追放されヴォルフに助けられ、新しい一歩を踏み出して。
 人には考える力や決断する力がある。
 それをわたしが代わりに背負ってしまうことは、逆にその人を軽視していることになる。
 人はその場その場で最善を尽くし、間違ったら反省し自戒して、また歩きはじめるしかないのだ。

「ヴォルフ、ありがとう」

 小さなつぶやきを小耳に挟んだ神殿長が、心配そうにこちらを見た。

「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ、なんでもないです。大丈夫です」
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