【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
5.神狼の咆哮
「ヴォルフ……助けて」
寝台に押し倒され、陛下に純潔を奪われそうになったその瞬間、無意識のうちに彼の名を呼んでいた。
開いた天蓋の布の向こう、窓からは白い月光が差しこんでいる。
煌々とした明るさは、満月の証。
女神レクトマリアの力が最も強まる望月の夜。
その大きな窓に、暗い影が差した。
影は瞬きをする間もなく巨大化し、窓一面を覆う。
刹那、激しい音を立てて窓硝子が砕け散った……!
「なんだ!?」
陛下が瞬時に寝台を飛び出し、どこからか取り出した大剣を手にする。
「何者だ!」
夜色の影……。
割れた窓から飛びこんできた巨大な影は、既に室内にいた。
窓は高い位置にあり、壁面から侵入する手がかりはないはずだ。
あるとしたら、空。空からの来襲しかない。
その時、影が揺らめき、目が潰れるほどの強い光を放った。
「…………!!」
だが、その影の正体は、空を飛ぶための羽を持たなかった。
閃光の中から、ゆらりと現れたのは――
一頭の、獣。
白銀に輝くしなやかな体躯。
金色にきらめく二つの瞳。