【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「くっ……なぜだ!? 女神の聖剣が消えていく!」

 大神殿の神官の話で聞いたことがある。
 神具とは代々の大神官達が神力を込めて作った至宝。この世に二つと同じもののない奇跡の結晶。

「神官を呼べ! 聖剣を失ってはならぬ」

 おそらく聖剣は強大な神力にさらされたせいで崩壊してしまったのだ。
 聖女選定の儀や聖女継承の儀で使った聖なる水晶もまた神具の一つだけれど、影響を受けてはいないだろうか……。

 神官の到着を待たず聖剣は崩れ去り、陛下の手の中から完全に消えた。
 立ち尽くした陛下が呆然とつぶやく。

「聖剣が……、なぜこんなことが……」

 それは。
 圧倒的な、神の力――。

「ああ……ヴォルフ」

 ヴォルフの力だ。

 わたしの、聖獣。
 たったひとりの愛しいひと。

「皆さん……、手を出してはいけません!」

 わたしは騎士達に向かって大きな声を上げた。

 止めなければ。
 ヴォルフの力で人が亡くなるのは見たくない。

 わたしはだるい体を起こし、寝台から剥がしたシーツを全身にきつく巻きつけると、ヴォルフの前に立った。

「……この方は女神レクトマリアの眷属神。女神の御座所を守護する銀の狩人。人間が剣を向けて良い相手ではありません!」
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