【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 その場がしんと静まった。
 陛下も近衛騎士達も、白銀の狼とわたしを凝視する。

 わたしはちらりとヴォルフを振り返って微笑んだ。
 うれしかった。
 ヴォルフがここにいる……。ヴォルフとまた逢うことができた。

「ヴォルフ……来てくれたのね」
「クゥゥン」
「ありがとう」

 何を言っている、当たり前だ、と文句を言うヴォルフ。
 こんな状況なのに、別れる前のまま。凄く低い声なのに、甘えた仔犬のような鳴き方。

「わたし、失敗しちゃった。国王陛下と王太子様になんとかわかってもらおうとしたんだけど、駄目だったの」
「クゥン?」
「世の中はそう簡単に変わらないのね……」

 その時突然稲妻のような光が閃く。
 思わずつぶってしまった目を開けると、そこには人間の姿をしたヴォルフがいた。

 月光に照らされた体は、鞭のような筋肉に覆われている。
 広い背中に白銀の髪がなびき、後光のようだ。
 彫りの深い端整な顔は眼光が鋭く男らしいのに、女神の祝福を感じさせる優美さもあった。
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