【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
6.大樹の棲み家
突然目の前にあった月が消え、意識が途切れ……。
ふっと気が付くと、そこは人けのない森。木々の葉がさわさわとかすかな風に揺れている。
深い森ではない。軽く重なる枝の隙間から、白い月が見えた。
それほど時間は経っていないようだ。空はまだ暗く、月は変わらず煌々と輝いていた。
わたしは大樹の根もとに寄りかかって座っていた。体に巻きつけたシーツが落ちていないことにほっとする。胸もとをもう一度きつく巻き直して、大樹を見上げた。
とても大きな樹だ。森の中の開けた平地にぽつんと立っている。幹の横幅は馬車一台分くらいはあるかもしれない。
森はどっしりと根を張った大樹を中心にして、なだらかな丘になっているみたいだった。
ここはどこだろう。
ヴォルフは……?
傍らにぬくもりがないことが急にさみしくなった。
「ヴォルフ……」
「起きたか? 待たせてすまなかった」
「きゃっ」
びっくりした。
ヴォルフの声だ。