【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 その時、ヴォルフのまとう空気が急にサッと固いものに変わった。

「どうしたの……?」

 緊張……、そして、警戒。

「…………」

 わたしを膝にのせて抱いたまま、テラスの隅の一点を凝視する。
 明るい朝の陽だまりの中。それは突然ふっと現れた。

 ふよふよと漂う、小さな球体……。
 ぼんやりと白く光り、かすかに明滅している。

「聖なる水晶!?」

 思わず叫んでしまう。
 ヴォルフがわたしをなだめるように背中をさする。

 国王陛下がまた聖なる水晶を復活させて、わたしを追ってきたの?
 ヴォルフと離れるなんて、もう絶対にいや……!

「大丈夫だ。俺がついてる。あれは人間達の作った水晶じゃないから、心配しなくていい。……まあ、面倒だが」

 聖なる水晶じゃない……?

 そう疑問に思って見てみると、確かにちょっと違う。弱々しい光り方とか大きさとか。
 聖なる水晶が人の頭ほどあるとしたら、それは子供の拳ほどの大きさしかなかった。

 小さな白い球体がくるんと空中に輪を描いた。

『ハァイ、おはよう! わたくしよ、わたくし』
「…………」
『レ、ク、ト、マ、リ、ア!』
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