【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「ヴォルフを……全部、ちょうだい」
「ああ、全部やる。だから、おまえのすべてを俺にくれ」
「……はい」

 急速に日が陰り、部屋の中は薄暗くなっていた。
 青い世界に少しだけ欠けた明るい月の光が注ぎこまれる。

 媚薬でぼんやりしていた昨夜の感覚とはまったく違う。
 ヴォルフの熱さ。滴り落ちてくる汗。押し殺した低い声。

「大丈夫だ。マリアーナ、力を抜いて」

 力を抜いて。ヴォルフを信じて。

 顔を汗でびっしょりにして眉をしかめるヴォルフ。必死に衝動をこらえて、優しく笑うヴォルフ。

 大好き……。

 ヴォルフが目を閉じて体を震わせた。

 ……熱い。
 吐息が熱い。
 体が燃える。

 あふれるような幸せを感じた。
 心も体も、ヴォルフで満ちていく。
 無意識に入っていた力が抜け、すべてをヴォルフに任せる。

 もう、聖女はいない。
 わたしは、聖女ではない。
 わたしが処女を失っても、愛するひとに渡せる女神の加護はない。

 けれど、わたしは祈った。





 すべての幸運を、このひとに――。





 * * * * *




< 213 / 294 >

この作品をシェア

pagetop