【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 ここは王家の所有する離宮の一つなのだという。
 今は夕暮れ時で薄暗く、あまり見えないけれど、自然のままの風景を生かして建てられた離宮で、よく手入れのされた林や花畑に囲まれていると陛下が教えてくれた。

「ここで二、三日、休んでいこうか」
「……陛下、どうぞお気遣いなく……。わたしは大丈夫ですから」
「聖女殿は、本当に無欲だな。どうか私には、もっとわがままを言ってほしい」
「…………」

 それは、わたしがマリアーナで、本物の聖女ではないからだ……。
「聖女様」「聖女殿」と恭しく呼ばれるたびに、罪悪感に押し潰されそうになる。

「聖女殿、あなたは何か悩んでいるようだ。私ではあなたの憂いを払うことはできないだろうか」

 離宮の一室のソファーで食事の支度が整うのを待っていると、陛下がわたしの隣に腰を下ろした。
 膝に置いていたわたしの手にそっと自分の手を重ね、伏せた目を覗きこんでくる。これまでも、たまにこうして体がふれるほど近くに座ることはあったが、手を握られたのは初めてだ。
 焦って手を引こうとしても動けない。陛下の力のほうが強い。

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