【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
8.狼の夜は終わらない
「ヴォルフ……ごめんね?」
結婚式のあと、女神様も眷属神達もいずこともなく帰っていった。女神様は「飲むわよー!」と叫んでいたけれど、神々の集まる酒場がどこかにあるのかしら……。
「…………」
もう日はすっかり暮れて、夜の帳が森を覆っている。
満月の時よりも少し弱くなった月の光が、寝台と、そこに座る大きな背中を照らしていた。
「ヴォルフ、こっち向いて?」
のぞきこむと、子供のようにぷいっと顔を逸らすヴォルフ。
どうやらヴォルフはすねているらしい。『待て』と言われて、みんなの前で飼い犬のように従ってしまったことが衝撃だったみたい。
こんなにしょげてしまうなんて。もう『待て』は使わないようにしなきゃ。
「ごめんなさい。でも、みんな見ているのに、あんな口づけをするから……」
「わかってる」
……しょぼん。
そんな音が聞こえてきそうな落ちこみぶり。
「ねぇ、ヴォルフ。大好きよ。お願い……」
どうしてもわたしを見てくれないヴォルフ。
目の前にあるのは、広い背中……。たくましい肩の筋肉を手のひらで撫でる。