【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「奥さん、注文は何にする?」

 女将さんが威勢よくわたしに声をかける。
 ちょっと照れてしまった。奥さんなんて呼ばれたの、初めてかも……。

「マリアーナ、そんな可愛い顔するな」
「わたし? どんな顔?」

 ヴォルフがなぜか眉間にしわを寄せて、周囲を威嚇していた。
 そんなヴォルフを見て女将さんが笑う。

「綺麗な嫁さんを持つと、心配で大変だあね」

 まわりの客からどっと笑い声が上がった。
 あんまりにぎやかで子供達が起きてしまうんじゃないかと、隣の椅子に置いた籠の中をそうっとのぞく。グラウとナハトは大きめの籠の中で寄り添って眠っていた。
 よかった。昼間興奮してはしゃいでいた彼らは、部屋でごはんを食べてからもうぐっすりだ。

「おまえら、勝手に俺のマリアーナを見るな」

 席から立ち上がったヴォルフが、わたしの頭越しに抑えた声で抗議する。
 そこそこいい年齢の商人達は若く見えるヴォルフをからかって次々と話しかけた。

「兄さん、そんなこと言ったって、男は美人を目で追っちまうもんだろうが」
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