【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 目の前には懐かしい料理が並んでいた。濃い色の麦酒によく合う、ゆでた腸詰めの肉に酢漬けの葉野菜。腸詰めは種類が多く色も味つけも様々だ。うちでもたくさん作っていた、冬の間の保存食にもなる伝統的な食べ物だった。

「マリアーナは……おっと、いけねえ、今は聖女様か。小さいころは地味な子でねえ、まさかあの娘が本物の聖女様だったなんて思いもしなかったよ」

 商人達の一人がしみじみとつぶやいた。
 どうやらこの街の住人も食事に来ているようだ。見覚えはないけれど、わたしを知っている人らしい。
 それなのに、わたしがそのマリアーナ本人だってなぜ気づかないのかしら。

「奥さんみたいに明るい美人さんだったら、すぐに聖女様だってわかったのなあ」

 ちょっと複雑な気分。
 確かにヴォルフと結婚してグラウとナハトが生まれ、わたしは穏やかな幸せに包まれている。いつも暗い気分だったあのころとは見かけも違っているかもしれない。でも、この街にいた時も今も、わたしはわたしなのに。
< 266 / 294 >

この作品をシェア

pagetop