【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「ははっ、おまえさん、変なやつだな。そうだ、奥さんへの贈り物に一枚どうだい? 子供がどうとかってのとは別に、記念にもなるだろ」

 人のよさそうな画家のおじさんがわたしを見て、にこにことしている。
 のんびりしたおじさんの様子では、わたしがマリアーナだとは思ってもいないみたい。念のためスカーフをかぶっているし、『聖女マリアーナ』は十年以上前、亡くなったことになっているのだから当然かもしれない。

「なるほど、記念かぁ」

 ヴォルフはなにか思いついたようだった。

「そうだ、新しく絵を描くことはできるか?」
「新しい絵かい? ああ、時間さえあればできるよ」
「俺の妻の絵を描いてくれないか? 家に飾っておきたいんだ」

 優しく細められた金色の目が、わたしを見つめた。

「ヴォルフ? そんな、恥ずかしいわ」
「このオヤジの絵が気に入った。『記念』になるだろう?」
「記念?」

 なんの記念なのか、よくわからない。『記念』といっておけば、買い物の免罪符になるとでも思っているのかしら。
 そこに少年たちが元気に駆け寄ってきた。黒髪と灰色の髪の双子の男の子だ。
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