【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「狼さん、大丈夫よ。すぐお薬を塗ってあげるから、じっとしていてね」

 小さな男の子に声をかけるような口調になってしまったけれど、怒らないわよね……?

「…………」

 狼は「子供じゃないぞ」とでも言いたげに少し額にしわを寄せたが、大人しく待っていてくれた。
 手巾を水筒の水で濡らして、傷口を綺麗にする。じわっと赤みが広がるが、それほど出血しているわけでもないようだ。
 血が止まったら、そうっと薬を塗る。

「いい子ね、もう終わりよ」

 つい、子供にするように頭を撫でてしまった。
 そのまま首筋に手をやると、もの凄くもふもふしている。野生の獣のはずなのに、よく手入れされた飼い犬のように清潔で手ざわりがいい。

「素敵な毛並みねえ……」

 思わずうっとりとつぶやくと、狼はわたしの手のひらに顔をこすりつけてきた。

「きゃっ」

 あまりに狼が大きいものだから、押されて倒れこんでしまう。

「あ……!」

 痛い――と思う間もなく、わたしの下には狼の分厚い毛皮があった。
 少し硬いけれど、量が凄い!

「あ、ありがとう。助けてくれたのね」

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