【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 深淵の森――それは、鬱蒼とした森と底知れぬ深さの谷が連なる秘境だ。
 本当か嘘かわからないけれど、人を好んで喰らう魔獣が産み出されるところだとも言われている。

 その深淵の森を少し分けいったところに、わたしは身一つで取り残された。森の中はどこも同じ風景に見えて、戻る道は既にわからない。
 獣の鳴き声なのか別の物音なのか、得体の知れないざわめきが、わたしを取り囲んでいた。
 ああ、これは体のいい処刑なのだなと理解した。

 けれど。

「よかった……」

 心の底からほっとした。

 これでもう人を欺かなくてもいいのだ。
 あとはモーリーンが本当の聖女として、人々に幸いをもたらしてくれるだろう。

 わたしの役目は終わったんだわ……。

 解放。
 豪華な石造りの鳥籠からの解放。
 極刑同然の扱いであっても、わたしにとってはまさに解放だった。

 あとは罪を償うために、深淵の森の養分となればいい。





 後ろから忍び寄る、大きな獣……。
 厚く重なりあう木々の葉の隙間から、鋭い瞳が覗いているのを、その時のわたしはまだ気づいていなかった。



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