【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~

2.少女はもふもふと旅に出る



「クゥン」

 背後から聞こえてきた聞き覚えのある鳴き声に、わたしは驚いて振り返った。
 恐ろしいほど低いのに、甘えた仔犬のようなこの鳴き声は、まさか……。

「クゥーン」
「ヴォルフ……ヴォルフなの!?」

 深淵の森の密集した木々の間から、白銀に輝く巨体が現れる。

「……ヴォルフ!!」

 とっさに走り出して、木の根に足を取られかける。転びそうになったその勢いのまま、狼の首に抱き着いた。

「クゥン、クン?」

 ヴォルフは、危ないだろう、気を付けろと言っているようだ。

「逢いたかった! 逢いたかったの、ヴォルフ」

 涙があふれた。
 もう一度、逢いたかった。
 女神様のみもとに行く前に、もう一度だけでいいから、彼の白銀の毛並みにうずもれたかった。

「クゥンクゥン」

 俺も逢いたかったと言うように、顔を舐めまわされる。
 涙も舐め取られてしまった。

「もう、くすぐったいったら。ヴォルフ、舐めすぎよ。そんなにペロペロしないで?」
「ク――――ゥン!」

 なぜかまた興奮してしまった……。
 わたしはヴォルフが飽きるまで舐められたのだった。





< 54 / 294 >

この作品をシェア

pagetop