【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
2.少女はもふもふと旅に出る
「クゥン」
背後から聞こえてきた聞き覚えのある鳴き声に、わたしは驚いて振り返った。
恐ろしいほど低いのに、甘えた仔犬のようなこの鳴き声は、まさか……。
「クゥーン」
「ヴォルフ……ヴォルフなの!?」
深淵の森の密集した木々の間から、白銀に輝く巨体が現れる。
「……ヴォルフ!!」
とっさに走り出して、木の根に足を取られかける。転びそうになったその勢いのまま、狼の首に抱き着いた。
「クゥン、クン?」
ヴォルフは、危ないだろう、気を付けろと言っているようだ。
「逢いたかった! 逢いたかったの、ヴォルフ」
涙があふれた。
もう一度、逢いたかった。
女神様のみもとに行く前に、もう一度だけでいいから、彼の白銀の毛並みにうずもれたかった。
「クゥンクゥン」
俺も逢いたかったと言うように、顔を舐めまわされる。
涙も舐め取られてしまった。
「もう、くすぐったいったら。ヴォルフ、舐めすぎよ。そんなにペロペロしないで?」
「ク――――ゥン!」
なぜかまた興奮してしまった……。
わたしはヴォルフが飽きるまで舐められたのだった。