【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 ヴォルフが素早く体勢を立て直して、鼻先で荷物の中の食料をつつく。

「おなか空いたの?」

 首を横に振る。空腹なわけではないらしい。

「わたしに食べろって言ってるの?」
「キュン!」
「そう言われれば、おなかが減ったかも……」

 ずっと食欲なんて感じなかったのに、ヴォルフの顔を見てほっとしたからか、急におなかがグルグル鳴った。

 そこで、突然気が付いた。

「……音が」

 森のあちこちから聞こえていた不気味な鳴き声が消えている。
 ヴォルフと二度目に逢ったあの不思議な夜みたいに、すべての動きが止まっているわけではない。ただ、深い森は何かを畏れるように静まり返っていた。

「クゥン?」
「ううん、大丈夫。森が……急に静かになったから不思議で」

 ヴォルフはまわりを見回して、ちょっと偉そうに「クフン」と鳴いた。

「もしかして、ヴォルフが何かした?」
「クン」
「ヴォルフは……一体、何者なの?」

 ちょっと困ったように首を傾げる。どう説明したらいいのか、悩んでいるようだ。

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