【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 そう、最近ヴォルフは『待て』ができるようになったのだ!

「よし!」
「クゥ――――ン!」

 勢いよくペロペロとわたしを舐めはじめる。
 女神様の御使いに『待て』とか教えてもいいのかしら……。でも、ヴォルフがうれしそうだから、かまわないかな。

「うふふ、髪の毛がぐしゃぐしゃになっちゃった」

 ヴォルフと戯れながら、荷物の中から櫛を取って髪をとかす。

 食事の用意から髪の手入れまで神官がやってくれた大神殿と違って、自分の面倒はすべて自分で見なければならない。だけど、身代わりの聖女になる前は自分でやっていたことだ。苦ではない。

「明日はどっちに向かおうかしら」

 深淵の森を出てから、足の向くままにヴォルフと旅をしていた。基本的に人間が作った街道は使わずに、森の中のけもの道を通っている。

 ヴォルフは森のことはなんでも知っていた。
 綺麗な湧き水のある岩陰や、他の動物が使っていない静かな洞穴。快適な場所で休みながら、危険な崖や窪地は避けて進む。

 時折綺麗な花の咲く草原や雪をかぶった雄大な山々を見ることができて、とても感動した。

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