【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
5.女神様の事情
「その木の実、気に入った?」
「ええ、とってもおいしい」
温泉から上がったあと、なんだかとても疲れたので、涼しい木陰で簡単なお昼にした。
ヴォルフが採ってきてくれた新鮮な果実と干し肉、汲んだばかりの湧き水。
「よかった。また採ってくる」
ヴォルフが狼じゃなくて大人の男のひとの姿なのはまだ慣れなくて、なんだか恥ずかしいけど……。
わたしを気にかけてくれる様子は、狼のヴォルフのままでほっとする。
「やっぱりわたし、ヴォルフと一緒にいられて幸せ」
ふふ、と無意識に笑みがこぼれる。
小さな丸っこい果物を空にかざす。赤い果実は陽の光を受けて紅玉色に輝いた。
「聖女の宝石よりも綺麗だわ……」
ヴォルフはなぜか「うぅぅ」と唸って、ガシガシと頭をかいた。
「マリアーナは無防備すぎる」
「え?」
「こんなに可愛くて、可憐で、健気で……。俺は国王がおまえに惚れないか、国王に求愛されたおまえがその気にならないか、気が気じゃなかった」
「うふふ、まさかそんなことありえないわ。国王陛下は聖女を必要としていただけ。それが、わたしでもモーリーンでも良かったのよ」