【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
6.不穏な噂
白銀色の狼に癒されたり、背の高い美形にドキドキさせられたりしながら、ふた月ほど経ったある日。
季節が進み少し寒くなってきたので、あたたかい衣服を買い足そうかと、小さな町を訪れた。深淵の森を出てから初めて来た、人の住む場所だ。
巨大な狼の姿では町中に入れないので、ヴォルフは人の格好になっている。
「ヴォルフ、どうしたの?」
人間の町は久しぶりだけれど、それにしてもヴォルフの様子がちょっとおかしい。ピリピリしているというか……。
「マリアーナが心配だ」
一時もわたしのそばから離れないヴォルフ。
手をつないだり、上着の裾を握っていたり、髪をさわったり。必ずどこかにふれている。
「わたしだって子供じゃないんだから、大丈夫よ?」
「子供じゃないから心配なんだ……」
ヴォルフは鋭い目で周囲を見回しながら、小さな声でつぶやいた。
故郷の街ほど大きくはないけれど、人々の行き交う町並みは結構にぎやかだ。
それでも治安は悪くなさそうだし、何よりヴォルフが付いているのに、何がそんなに心配なのかしら。
「あの人、素敵」
「凄くかっこよくない?」