【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 マリアーナの寝顔は聖女そのものだ。純真無垢で清らかで、まだなんの色にも染まっていない。

「聖女、か」

 俺は初めてマリアーナと逢った時のことを思い出していた。
 マリアーナと、双子の妹モーリーン。
 その妹のほうが聖女に選ばれた顛末を。





 最初にマリアーナに出逢った時、後ろからやってきたのが妹のモーリーンだった。

『白狼? おお怖っ!』

 そう言って、マリアーナとそっくりな女が木の陰から現れたのだ。
 そいつは俺のことを街の人間に知らせようとしたマリアーナを嘲笑った。

『早く神殿に行かないと、聖女選定の儀が受けられなくなるじゃない。あたしが、みんなの待ち望んでいる聖女かもしれないのよ?』

 おまえみたいな不快な女が聖女のわけがない。

 そう吐き捨てたかったが、狼の姿では人の言葉を話せないし、すぐにどうでもいいかという気持ちが勝った。

『連絡係なんて、あなたがやりなさいよ。『蕾のマリアーナ』にふさわしい仕事だわ』

 あの妹が役に立ったのは、マリアーナの名を教えてくれたことくらいだろう。
 奴はその後、神殿に行き、聖女として認定された。

< 84 / 294 >

この作品をシェア

pagetop