【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 夜が更けた頃、ふと目覚めるとヴォルフが首を上げて滝のほうを見ていた。
 月の光がわずかに入ってくる暗い洞窟に、金色の瞳が光っている。警戒しているようだ。

「何か、来たの?」
「グゥゥ……」

 低い声で唸るヴォルフ。
 やがてわたしをかばうように立ちあがって、暗闇を見据えた。

「あれは……?」

 滝の音が響く方角から、ふよふよと白く光るものが漂ってくる。
 つるりとした球体は、神殿で見た聖なる水晶みたいだった。

「グルゥゥゥ」

 光る玉はヴォルフの威嚇などまるで気にせずに、ゆっくりと近づいてくる。
 怪しさ満点なのに、なぜか恐ろしく感じない。
 ヴォルフがいてくれるからというのもあるけど、ふよふよと浮かぶ呑気な様子に害意を感じないからかもしれない。

「なんだろう。何か……話しかけてる?」

 白い光はわたし達から人ひとり分くらい離れたところで止まり、空中で浮いたまま動かなくなった。
 光がチカチカと点滅する様子が、意志を持っているように感じられる。

「ヴォルフ?」

 目の前でパッと稲妻が閃いたかと思ったら、そこに人の姿のヴォルフがいた。
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