【完】それは確かにはちみつの味だった。


 2月の初旬の割には暖かい陽気に包まれながら、聞こえてくる吹奏楽部の演奏に耳を傾けていた。

 誰もが知っている有名な某卒業ソングだ。きっと来月に行われる卒業式に向けて練習をしているのだろう。

 母親や年の離れた姉を含め、周りの大人たちがこぞってうらやむ“華の女子高校生”生活は案外呆気ないものだった。

 幼少期から本の虫だと両親に言われ続けた私が、彼氏の1人も作らず毎日にように図書室に通い詰める日々を送っていたことも原因の1つだろうと思っている。

 
 気がつけば、高校を卒業するまで残り1カ月を切っていた。


 今日から3年生は自由登校になり、基本的に進路が決定している生徒は自宅待機となる。

 既に年が明ける前に推薦入試で大学に合格していた私は人の出入りが激しい放課後を狙って登校しては、今日もまたいつもの様に図書室で読書がてら委員会の仕事をしていた。

 まず、返却コーナーに積み重ねられた本を慣れた手つきで本棚ごとに振り分けていく。大体どの本がどの場所にあるのか頭に入っているのは、こっそり自慢したい私の特技だ。

 司書の先生は「いつも大原さんばかりに押し付けてごめんなさいね」と申し訳なさそうにしているが、私も好きでしている事だから苦に思ったことはない。

その代わり図書室ではわりと自由にさせてもらっているため、そのくらいの仕事はおやすい御用である。

 テキパキと本の仕分けを終えてそれぞれの本棚に戻しに行こうとした時、後ろで図書室の扉がガラッと開く音が聞こえた。

 訪れた人物を確認せずとも、この時間帯に来る物好きが誰なのかは大体分かっている。

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