今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
2-1
12月も間近の冬の始まりの頃。紙宝堂に来て初めて、叶の知り合いらしき人と遭遇した。その時はちょうど古書の買い付けに出掛けて、当人は留守だった。
店の入り口から入ってきたその男性はパッと見、お客には見えなかった。三十代前後。B-3の革ジャンにジーンズ。足許はウエスタンブーツで、バイクのヘルメットを手にしたライダー。
どう見ても場違いな。・・・入る店を間違えたんじゃ、と即座に思ってしまった位に。向こうは向こうであたしが居るのを驚いた風で視線が固まっていた。
「い・・・らっしゃいませ」
とりあえず。客だろうとなかろうとこれは接客の基本だ。
「あー・・・叶、いる?」
ぶっきらぼうな訊ね方に初対面の印象はそこそこ悪い。
「・・・申し訳ありません。外出しておりまして」
ほんの少し愛想を乗せて口許だけ緩ませる。つい数ヶ月前まで日常だったやりとりだ。この手の対応は慣れてると言うか、体が覚えていると言うか。
「なら待たせてもらうわ」
言うと、男はホールの円卓席にどっかりと腰を下ろした。あたしは何も訊かずに紅茶を入れ、テーブルに置くとそのまま自分の仕事に。
それから数十分ほどして叶が戻るまで互いに一言も喋らず。それが時雨とのファーストコンタクトだった。
店の入り口から入ってきたその男性はパッと見、お客には見えなかった。三十代前後。B-3の革ジャンにジーンズ。足許はウエスタンブーツで、バイクのヘルメットを手にしたライダー。
どう見ても場違いな。・・・入る店を間違えたんじゃ、と即座に思ってしまった位に。向こうは向こうであたしが居るのを驚いた風で視線が固まっていた。
「い・・・らっしゃいませ」
とりあえず。客だろうとなかろうとこれは接客の基本だ。
「あー・・・叶、いる?」
ぶっきらぼうな訊ね方に初対面の印象はそこそこ悪い。
「・・・申し訳ありません。外出しておりまして」
ほんの少し愛想を乗せて口許だけ緩ませる。つい数ヶ月前まで日常だったやりとりだ。この手の対応は慣れてると言うか、体が覚えていると言うか。
「なら待たせてもらうわ」
言うと、男はホールの円卓席にどっかりと腰を下ろした。あたしは何も訊かずに紅茶を入れ、テーブルに置くとそのまま自分の仕事に。
それから数十分ほどして叶が戻るまで互いに一言も喋らず。それが時雨とのファーストコンタクトだった。