今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
「古本屋・・・」

思わず苦笑い。

右も左も連ねているのは古書店だった。電飾看板もなく、古びた大きめの表札のような店名が入り口の横、あるいは上に付けられているような。

どうしてここに集まっているのかが不思議だったけれど、わざわざそれを訊ねに店内に入る勇気も無く。きっと向こう側の道に抜けるだろうと、通りすがりの振りで視線だけあちこち。そこで不意に目に止まってしまった。急募の二文字。

『お好きな時間にお手伝い下さい』
『書庫の整理など、どなたでも出来ます』
『ご希望条件、承ります』
紙宝堂(しほうどう) 店主』

・・・バイト募集?
ちょっと頭の隅を過ぎったのは、持て余す休日の時間(ひま)を潰せてお金も稼げるっていう、自分の都合勝手な事情。

店構えを見ると他の古本屋とはだいぶテイストが違う。昭和初期の洋風建築物。とでも言えばいいのか。外壁はコンクリートのようだし、入り口は重厚そうな木製の両開きの扉がきっちり閉まっていて、店というよりは事務所・・・倉庫。

「ナシ・・・よね」

足を止めて、その達筆な募集広告をもう一度眺める。イーゼルに立てかけられた小さな黒板。よく日替わりランチのメニューが書かれてあったりする、あれだ。扉の前に二段の階段があって上段のポーチにそれは置かれていた。 
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