今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
仄暗さの中、叶があたしを見下ろしている。時雨はベッドの縁に腰掛け、沈黙して背を向けていた。

あたしは。見つめ返すしかできない。目は鏡。悪意。狂気。嘘。虚無。偽り。優しさ。愛しさ。哀しみ。怒り。憤り。あの小さな部分に、人は知らず本心を晒す。

叶は目を逸らさなかった。あたしは彼の眸の中に何かを探そうと一心に目を凝らす。まるでそれすら解っているように叶は黙って、裁きを待つように。

ねえ。貴方はあたしを『裏切った』の?

込み上げた涙が零れ落ちた。頬を優しく拭ってくれた叶が一瞬、(くう)を仰ぐ。

その瞬間に突き抜けた想いをどう説明していいか解らない。何故だか胸が詰まった。彼が祈ったようにも見えて。

理由もなく、こんなことをする人じゃない。
だって苦しそうだった。 
痛そうだった。

ああ。きっともう手遅れなのだ、こんなにも叶を理解したがって。なんて浅はかなんだろう。それは女だから?あたしだから・・・?

「・・・叶、どうして・・・?」

泣きながら自分から押し開いた扉。その向こうに繋がるものを知る由もなく。
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