今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
叶は手の戒めを解くと上半身だけ起き上がったあたしにバスローブを羽織らせ、自分もそうして、ミネラルウォーターを差し出す。時雨は窓際に立ち、ずっと背を向けたままで。

本当に分からない。あたしを欲望の道具にしたかったなら、もっとしたい放題にすると思うのに。
 
「・・・ここに時雨を呼んだのは僕だよ」

今度は叶がベッドの縁に腰を下ろし、静かに見つめた。

「話す前に・・・スズ、今なら君はここから出て行ける。・・・これきりのチャンスだ、自分で選びなさい。話を聴いたら君はもう一生僕から離れられない」

あたしは黙って耳を傾ける。

「この部屋を出たら二度と紙宝堂には近付くな。・・・命の保証はしないよ」

薄い微笑み。ああ。貴方は闇と隣り合わせに生きる人なの・・・。

不思議と怖くはなかった。だって。目を逸らさないままであたしは言う。

「嘘つき。・・・思ってもない癖に」 
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