今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
彼との距離がこんな具合に縮まったのは、キスの一件があってしばらく経ってから。叶が自分の留守の間を、時雨に任せるようになったのがきっかけだった。
『時雨、スズを頼むよ』
決まり言葉のように微笑み、あたしにはキスを落として出掛けてゆく。
時雨が近くに住んでいるのか、どこから来ているのかも知らない。ただ、彼が紙宝堂に姿を見せる日は叶がいない日。・・・気付けばそういう図式が出来上がっていた。
最初は距離を置いて時雨に近付かないように。別に警戒していたとかじゃなく、単にどう接していいのか判らなかっただけで。業を煮やしたのか、向こうがあたしに声をかけるまで、白白しい空気が漂い続けたと思う。
『鈴サン』
さん付けで名を呼ばれたのは久しぶりだった。そう言えば。叶はいつの間にかスズとしか呼ばない。
『・・・そんなに俺が怖いか?』
溜息雑じりに彼が言った。首を横に振る。
『じゃあ何を怖がってる?』
なにを・・・?
叶が望んでるものを受け容れても、自分で自分のバランスを保てるのか。・・・怖い。コワイ。思いきり逸らした目。
『イヤなら逃げろよ』
あたしの顎に手をかけ、上を向かせた時雨。
『死に物狂いで逃げてみろ』
あたしは叶を愛してるの。
でも時雨を拒めないの。
これって何なの?
『逃げねーなら逃がさない。・・・一生な』
そう言ってシニカルに笑った。
『時雨、スズを頼むよ』
決まり言葉のように微笑み、あたしにはキスを落として出掛けてゆく。
時雨が近くに住んでいるのか、どこから来ているのかも知らない。ただ、彼が紙宝堂に姿を見せる日は叶がいない日。・・・気付けばそういう図式が出来上がっていた。
最初は距離を置いて時雨に近付かないように。別に警戒していたとかじゃなく、単にどう接していいのか判らなかっただけで。業を煮やしたのか、向こうがあたしに声をかけるまで、白白しい空気が漂い続けたと思う。
『鈴サン』
さん付けで名を呼ばれたのは久しぶりだった。そう言えば。叶はいつの間にかスズとしか呼ばない。
『・・・そんなに俺が怖いか?』
溜息雑じりに彼が言った。首を横に振る。
『じゃあ何を怖がってる?』
なにを・・・?
叶が望んでるものを受け容れても、自分で自分のバランスを保てるのか。・・・怖い。コワイ。思いきり逸らした目。
『イヤなら逃げろよ』
あたしの顎に手をかけ、上を向かせた時雨。
『死に物狂いで逃げてみろ』
あたしは叶を愛してるの。
でも時雨を拒めないの。
これって何なの?
『逃げねーなら逃がさない。・・・一生な』
そう言ってシニカルに笑った。