今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
「今日は俺のモンじゃなかったか?」

「我慢できそうになくて返してもらいに来たよ」

ぼんやりした頭に時雨の不機嫌な声と、聴き慣れたトーンが聴こえてきて瞬時に覚醒。ベッドの上のあられもない姿は、大きな葉を広げたグリーン達にかろうじて隠されていた。

「・・・スズ。僕と一緒に帰ってくれないかな」

その向こうからあたしに掛けられた叶の優しい声。一瞬ためらったのは、何も答えを用意できてなかったせい。それでも小さく頷く。

「・・・・・・うん」

「ありがとう」

“ありがとう”。その響きが胸を締め付けた。痛く、・・・苦く。

身支度が整うのを待ってくれた叶の前にぎこちなく立った。人形堂の仕事の前や後に、時雨に抱かれるのとは意味が違った気がして。口から無意識に零れる。

「・・・あの、ごめんなさい」

「どうして謝るの」

伸ばされた腕に引き寄せられ閉じ込められた胸元。シャツから仄かにフローラル系の香りが。おしゃれ着洗い用の洗剤も、さんざん悩んで選んだんだっけ。

「我が儘なのは僕のほう。君がいないと壊れそうだよ」

頭の天辺に埋まるキス。

「・・・それとももう、壊れちゃったかな?」
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