今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
不本意そうに、それでも引き留めはしなかった時雨。叶の前であたしの髪や顔にキスの雨を降らせてから、「お預け食らった分、次は覚悟しな」と意地悪く笑った。

部屋を出て、路上駐車していたハリアーに乗り込んだ。いつもみたいに空いた片手であたしの手を握ることなく、叶は車を走らせ続ける。

陽も落ち、景色もすっかり様変わり。建ち並ぶビルの窓明かりが点描画になって流れていく。

黙りこくったままの叶にどうしようもない不安が押し上がって。お腹の底にきゅっと力を込めた。

「怒ってる・・・?」

「怒ってないよ」

「ずっと黙ってる」

「運転に集中してるだけだよ」

「・・・やっぱり怒ってる」
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