気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
第十五章 夢のアトラクション
ようこそ!夢の国へ!
地獄のようなスクリーングはなんとか終わりを迎えた。
翌日、俺は朝刊配達を終えると家族を起さないように静かーに食事を済ませ、支度を終える。
なぜならば、奴らに気づかれる危険性があるからだ。
階段を足音立てずに玄関までたどり着けた。
スニーカーに足を入れ、紐を結ぼうとしたその時だった。
背後に人影を感じる。
「タクくん? こんな朝からどこへ行くの?」
振り返るとそこには、裸の男たちが絡み合っているBLパジャマを着た母さん、琴音が立っていた。
「え……ちょっと、友達と遊びに」
「タクくんがゴールデンウィークにお友達と? 何か隠してない? そうねぇ、例えば同人とか」
眼鏡をかけなおして、微笑を浮かべる。
こ、こえぇ。
「嫌だな、母さんったら。俺は博多ドームで野球観戦するだけだよ」
「タクくんって野球に興味あったかしら? それに今日は博多ドームは違うイベントがあるみたいねぇ」
スマホを取り出し、何やら検索しだす。
「あらあら、今日はコミケの日じゃない~♪ 母さんも行こうかしら?」
ヤバイ! この人とだけは行きたくない。
「か、母さん。お店があるだろ? 予約ドタキャンしたらダメじゃないか」
「ええ、そんなのお客さんも一緒に連れていけばいいじゃない?」
そうだった、俺の育った真島はこのゴッドマザーによって腐りきってしまったのだった……。
「と、とにかく! 俺は仕事で行くんだよ! だから母さんとは行けないよ」
「なにその天職? ひょっとしてタクくんたらBL作家に転向したの?」
そんな仕事、こっちからごめんだ!
「違うよ……ミハイルとそれから、前に話した変態女先生と取材に行くんだ」
「なんですって! あのBL界隈で期待のエース、変態女様と現地調達するわけね! それなら母さんんは邪魔になるわ……いってきなさい! そして変態女先生のお力になるのよ!」
急に態度が変わりやがった。
「あ、そうそう。今日のコミケに母さんの推しているサークルも出展するのよ。お金あげるから買ってきてちょうだい。保存用、閲覧用、配布用に50部ほど」
と言って、諭吉さんを3人ももらえた。
「わかった……善処するよ」
俺はリュックサックを背負って、家を出た。
50冊持って帰るとかしんどいな。
※
朝早くだというのに、ゴールデンウィークという時期も重なってか、電車の中は人混みでいっぱい。
博多駅に降りてもたくさんの人で溢れかえっていた。
事前に待ち合わせ場所はミハイルとほのかの三人で決めていた。
『黒田節の像』の前。
「おーい、タクト☆」
両手を振って、元気いっぱいなミハイルきゅん。
相も変わらず露出度の高い服装だ。
可愛らしいネッキーがデカデカとプリントされたチビTとショーパン。
珍しくキャップ帽を被っていた。
ネッキーの耳つきね。
今からどこに行くのかわかってんの、こいつ?
「おう、ほのかはまだか?」
「そだな☆ オレが一番乗りだぞ☆ 朝の5時半から待っていたからな」
ない胸をはるな! そして怖いわ!
「またそんな早くから……ヴィッキーちゃんにはなんて言ってきたんだ?」
「え? ねーちゃんには遊園地みたいなところって伝えといたけど」
お前が今から行くところは地獄だよ。
片道きっぷだけのな。
「ミハイル、今から行く場所なんだけどな。ビニール袋を常に携帯しておけ」
「ん、どうして?」
「吐き気を感じることも多々あるだろう」
酒池肉林だからな。
「ふーん。絶叫系てことかな?」
ある意味、スクリームだよ。
「わかった☆ タクトがそう言うなら気を付けるよ」
十二分に気を付けてください。
しばらく、俺とミハイルが雑談していると、北神 ほのかが現れた。
汗だくになって、ドデカいキャリーバッグを二つも転がしていた。
「お、お待たせ! 戦闘準備、完了であります!」
普段通りのJK制服を着ているのだが、なぜか額にはハチマキが。
『BL・百合・エロゲー募集中!』
と書いてある。
力寄らないでください。変態がうつりそう。
「おはよう☆ ほのか、今日の遊園地はどこなの?」
屈託のない笑顔で問いかける少年。
「フフッ、よくぞ聞いてくれました。ミハイルくん! 遊園地は博多ドームよ! 今日だけのね」
あの、もう遊園地って表現するのやめません?
うちのミハイルくん、ピュアなんで、汚さないでください。
「おお! 一日だけの遊園地とかすごいな☆」
ほら見ろよ、勘違いしてテンション爆上げじゃん。
「ええ、年に4回はあるから、ミハイルくんも今日で慣れてね」
慣れるな!
「うん、頑張る☆」
頑張っちゃダメだよ。
「さ、行きましょう! 博多ドームへ!」
「えいえいおー☆」
「おぉ……」
オーノー!
※
博多駅の隣りにあるバスセンターから百道行きのバスに乗る。
車内の中をよく見ると、ほぼというか全員オタク。
痛Tシャツを着る猛者や既にコスプレをしている女子まで。
こいつら、全員コミケ目的か。
地獄へのバスだな……。
バスで揺られること30分ほど。
ドーム近くの百道浜のバス停に到着した瞬間だった。
「おらぁ! ドケやぁ!」
「わしが先じゃボケェ!」
「どかんとぶち殺すぞ、ゴラァ!」
注意:全員女性の方です。
奥から婦女子の皆さんが無理やり前の乗客を押し出す。
俺たちは文字通り、バスから叩きだされた。
料金も払えずに……。
「あっ、ちょっと俺、払ってないんすけど」
そう言いかけたがバス内は怒号で荒れていた。
俺が必死に金と切符を空にかかげる。
それに気がついた運転手がマイクでこういった。
「あんちゃん、今日はもういいよ。帰りのバスの運転手に渡しておいてや。今日はダメや……」
首を横に振る中年のおじさん。
かわいそう。
「で、でも……」
俺が戸惑っているのを静止したのは北神 ほのかの手だった。
肩にポンポンと優しくたたく。
「琢人くん、察してあげなさい。今日はお祭りなんだから……」
無駄に優しい顔で微笑まれたんすけど。
女じゃなかったら、ブン殴りたい。
「わ、わかったよ……じゃあ帰りの運転手さんに事情を伝えて払っておこう」
「そうそう、そんなことより会場までダッシュだぜ!」
親指を立ててウインクする変態女先生。
「遊園地なのにお祭り……?」
未だにイベントの内容を把握されておられないミハイル氏。
「ミハイルくん、私についてきて! 博多ドームまでかけっこよ!」
ほのかはそう言うと重たそうなキャリーバッグをガラガラと音を立てて走り出した。
火事場のクソ力である。
いや、変態パワーか。
「あ、ほのか。ちょっと置いてかないでよ」
ミハイルは何が起こっているのか、わからずにいる。
あたふたして、ほのかのあとを急いで追っかける。
「はぁ…急ぐ必要性あるか?」
二人からはぐれないように俺も走った。
「ほっ、ほっ、ほっ!」
帰ってくる、オタクと腐女子たちが福岡に帰ってくる!
がんばれ同人界!
博多ドームの地下駐車場に皆集まっていた。
大きな看板が立っていた。
『第41回 めんたいコミケ』
俺はこのコミケに何度も来たことがある。
嫌って言うほど叩きこまれていた。
まだ右も左もわからないうちに真島のゴッドマザーから英才教育を受けていたのだから。
入場料を払い終えると、長蛇の列が待っていた。
開館するまでまだ2時間もあるというのに、もう何千人という人だかり。
「すっげーな、こんなに人が集まるなんて……どんなアトラクションが待っているの? ほのか」
目をキラキラと輝かせる無垢な少年。
「それはもう血湧き肉躍るパーリーだぜ!」
なぜか両腕組んで仁王立ちするほのか。
「だろ、DO先生よ!?」
俺に振るな。
「まあ界隈の人間からしたら、そんなもんかな」
正直どうでもいい。
「一狩り行こうぜ!」
お前だけ戦場に行って死んで来い。
「ワクワクしてきたよ、タクト☆」
かわいそうなミハイルくん……大丈夫、俺が守ってやっからよ。