気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
ペンネームのつけ方は、慎重に……。
「はじめまして、俺は新宮 琢人です」
立ち上がるとしっかり頭を深々と下げる。
「ええ! なんでトマトさんだけ年上扱い!?」
と俺の隣りでバカが騒ぐ。
「ハハハ、白金さんは童顔ですからね」
「あれは童顔とかいうレベルじゃありません。多分、どっかの惑星から侵略にきたキモい生き物に違いありません」
「聞こえてますよ!」
白金を無視し、トマトと名乗る豚と二人で会話を進める。
「あ、これ。僕が書いているイラストです」
トマトさんが差し出した一枚のイラストに、俺は目を奪われた。
ゴミが溢れる路地で、ガチムチマッチョの男が血だらけになりながらも、這いつくばっているものだった。
なんか、こうズシンと来た。
男は中年に見える。
黒服のスーツがビリビリに破れている。
恐らく誰かと戦ったあと、命に代えてもどこかへ、なにかを伝えるために必死に足掻いているのだろう。
「素晴らしい……」
俺は圧倒的な画力に衝撃を受けていた。
「これ……本当にトマトさんが描かれたんですか?」
「ええ、汚い絵ですみません……」
トマトさんはエアコンがガンガン効いた部屋の中だというのに、滝のように汗を流している。
「汚いなんてご謙遜を……この絵は俺の小説に出てくる主人公にぴったりです」
「そ、そうなんですか? なら差し上げますよ」
「いいんですか?」
やった! タダでゲットだぜ!
「はい……僕、いつも白金さんにダメ出しばっかりうけているんです。『トマトさん、童貞だから女の子の身体がわかってない。仕方ないから女子高の校門で待ち伏せて、JKを盗撮してこい』っとかて……」
「それ犯罪じゃないですか? このクソガキに騙されてますよ、絶対」
「エ~、ワタチ、まだコドモだからワカンナイ」
今時アヘ顔でダブルピースか……。
「いっぺん死んで来い」
「ハハハ、白金さんともう仲良くなられたんですね」
おい豚。あんま調子こくなよ?
※
「新宮先生はまだ学生さん?」
「ええ、中学二年生です」
「いやぁ、すごいな~ 僕なんか20代なのにまだまだ食っていけないよ」
「いえ、プロのイラストレーターさんとして誇るべきですよ」
「すいません……なんかさっきから私抜きで話を進めてません?」
俺とトマトさんを交互に睨む白金。
わがままっ娘だな。
「ああ、子供は帰ってゲームでもしてなさい」
「はいはい、じゃあ帰って『超ヒゲ兄弟』でも……って帰るか!」
ふむ、下手くそなノリツッコミだな。
「でも、これで出版決定ですね♪ パートナーはトマトさんで決まり!」
「え、僕なんかとでいいんですか!?」
「いいんでしょ? センセイ」
上目遣いがあざとくてムカつく。
「む……確かにトマトさんなら、俺の作品を任せてもいいです」
「やった~! これで二人の合作が出版されますよ♪」
白金がトマトさんと手を叩いて、喜びを分かち合う。
「苦節十二年……やっとデビューまで漕ぎつけた……」
トマトさんは感激のあまり、人目もはばからず、号泣している。
「じゃあ、イラストはトマト先生。原作は『絶対最強戦士 ダークナイト』センセイで決まりですね♪」
「……」
なんだろう。なんだっけな~
どっかで聞いたかもしれんが、まあ一応聞いてみよう。
「そんなダサい名前の小説家がいるのか?」
「ダサいって……ご自身のペンネームでしょ?」
俺もトマトさんに影響を受けたのか、室内が暑く感じ、わき汗が滲むのがわかる。
「どこでその名前を知った?」
「センセイのペンネームは『絶対最強戦士 ダークナイト』でホームページに登録してましたよ?」
俺の黒歴史だ。
そうだった…忘れていたんだ。
頭の片隅に丸投げしていて、自分の良いように記憶を改ざんしていたに違いない。
ああ、時を戻せるなら戻したい。
オンライン小説に初めて投稿したのが小学校の四年生の終わりぐらいだったか……。
当時の俺は
「めちゃんこカッコイイ名前にするお!」
と、その場で考えた名前を五年も登録したまま、改名するのを忘れていたのだ。
そう、ただただ作品だけにこだわり続けた結果、ペンネーム改名という行為に頭が回らなかったのだ。
うう……死にたい、こんな名前で俺はデビューするのか?
書店にあの中二臭い名前が本棚に並んだら、もうお嫁にいけない。
「あの、ダークナイトセンセイ?」
「俺をその名で呼ぶな! 頼むから」
にひん! と笑みを浮かべる白金。
俺の弱点を見つけたとでも、言いたげだな。
「いひひ……どうしよっかな~」
「頼む! その名前だけは絶対に嫌だ!」
「誠意が見えませんね~」
ロリババアのくせして!
だが、やむを得ない……。
「この通りだ! 頼む!」
俺が恐らく人生で初めて頭を下げると、ほくそ笑む白金のおぞましい顔が想像できる。
「仕方ないな~ まだまだ琢人くんもおこちゃまですもんね~」
このパイ〇ン女が……いつか必ず殺す!
「じゃあ、改名しますぅ?」
そのちっさい二つの鼻の穴に、俺のぶっとい指をぶっこんでやりたいぜ。
※
だが、いざ改名と言われても、五年もペンネームなんて考えていなかったもんな……。
待てよ、俺がデビューするということは俺の作品が、作家名がクラスでバレることもあり得る。
ここは……。
「そうだな……『DO・助兵衛』で頼む」
俺は自信ありげにそう言う。
反して、白金とトマトさんの表情が凍りつく。
「センセイ……真面目に考えてます?」
「そ、そうですよ。デビューするんですよ? そんな名前、フザけすぎですよ」
説得しようと焦るトマトさんのおっぱいが激しく揺れる。
頼むからこの拷問を止めてくれ。
「いや、トマトさん。俺は至って真面目に考えましたよ……」
「では、一体どんな意味が……」
トマトさんは俺の命名したペンネームに驚愕のあまり、数歩退く。
だが、俺にはその反応が予想の範囲内であり、自信満々に答える。
「つまりはこうです。俺は今まで『絶対最強戦士 ダークナイト』て通ってました……ですが、デビューするとなれば、クラスの奴らが目をつけるかもしれない! そうなったらすぐに噂が広まり、クラスのいい笑いもの。コミュ障の俺ではあんなリア充どもなんて、太刀打ちできない! だからそれだけは阻止したいのです」
「そ、そういう理由であれば、尚さら……」
「尚さら、この天才……つまり、俺とは思えないようなバカな名前がいいでしょう」
「え……」
俺の説明に固まるトマトさん。
「ダークナイトも十分、バカそうですけどね……」
なんだろな……エアコンが効きすぎてませんかね、このビル……。