気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

小説家の推定年収は7000万!


「アンナ……ここまで来てもらって悪かったな」
「ううん。タッくんとの取材がいっぱい詰まった初めての小説だもん。これぐらいなんてことないよ☆ それに……タッくんの初めてのサインを誰にも盗られたくないもん」
 なんか最後のセリフだけ狂気を感じる。
 誰かに初めてを盗られたら、殺しかねないな。アンナちゃんってば。
「ははは……初めてのサイン本はアンナに渡すに決まっているだろ」
 そんなこと思ってもないんだけど。
「だよね☆」

   ※

「ところで、どっちがタッくんの書いた小説?」
 テーブルに並べられた大量の書籍を眺めるアンナ。
 左側がラノベ版で、右側がコミカライズ版だ。
「ああ。それならこっちが俺の書いた小説だ」
 俺が指差してみると、アンナの顔が凍りつく。
「え……これが?」
「そうだが、なにか問題……あ」
 今、思い出した。
 表紙がモデルのアンナではなく、イラストレーターのトマトさんが描いたヒロインに差し替えられたんだった。
 どビッチの花鶴 ここあに。
 まだ彼女に、このことを知らせていなかった……ヤベッ。
「これ、アンナがモデルなんだよね?」
「あ、ああ……表紙や挿絵は俺の知り合いになっているが、文章ではしっかりアンナを詳細に描いているぞ?」
「ふーん。タッくんもやっぱり胸が大きい子が好きなんだね……」
 緑の瞳から輝きが失せていく。
 このままではまずい。
「いやいや。前にも言っただろ? 俺は巨乳が苦手なんだ。これは絵師の人と編集部が勝手に決めただけで……お、そうだ! こっちの方はアンナにそっくりだぞ!」
 そう言って、右側のコミカライズ版を差し出す。
 すると、アンナの顔に笑みが戻る。
「すごぉ~い! これ、写真みたい! タッくんが絵師さんに頼んでくれたの?」
「う……」
 俺は噓をつくのは大嫌いだが、この場では仕方ない。
 胸を叩いて「そうだとも!」と苦笑いで豪語する。
「うれしい☆ じゃあ、そっちの方を全部ちょうだい! サイン入りで☆」
 ヒロインが全部買っちゃったよ……。
 コミカライズ版のみ30冊も。

   ※

 クソ重たい紙袋を4袋も両手に持ち、笑顔でアンナは「じゃあまたね~☆」と去っていく。
 男の俺が持っても、しんどかったのに、軽々と持ち上げて、スキップまで見せる余裕ぶり。
 あ、アンナちゃんの中身は男じゃん。
 
 結局、売れ残ったのは、肝心のラノベ版『気にヤン』だ。
 いやぁ。こっち売れた方が印税とか俺に入るんだけどなぁ。
 でも、まあアンナが喜んでくれたから、良しとしよう。
 憶測だが、中身がおバカなミハイルだから、小説より漫画の方が読みやすいだろう。

 一人黙って頷いてると、白金がトイレから戻ってきた。
「あ~ 腹いてぇ~ 昨日、イッシーとハイボール飲み過ぎたせいかなぁ……キムチと餃子が美味かったから……」
 ハンカチで手を拭きながら、ごっそり無くなったテーブルの本に気がつく。
「あ、DOセンセイ! どうしたんですか? コミカライズ版、ないじゃないですか!?」
「え。さっき売り切れたぞ? 1人の客が全部買ってくれた」
「ひょえ~! 私のツボッターのおかげですかねぇ」
 間違ってはないけど、それはアンナのストーキングのおかげだ。
「じゃあ、これで帰ってもいいか? ラノベ版は……もう売れないだろ」
「いいえ! コミカライズ版が人気なら原作はもっと売らないと! 売り切れるまで、DOセンセイはここに残ってください!」
 えぇ……。
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