気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
友達
冷泉 マリアから提案された映画制作への第一歩。
それが小説というものらしい。
俺は生まれてこの方、文字だけの本なんて読んだことがない。
書きたくもないし、読みたくもない。
だが、彼女が言った『ものづくりの最初』であることは事実だ。
今日映画館で観たタケちゃんが創り上げたような世界を、俺も……いつかこの手で。
そうなれば、話は早い。
冷泉の言う通り、自宅にはペンとノートぐらいあるはずだ。
書くだけなら、タダでできる。
やってみるか……。
※
ハンバーガーを食べ終えた俺と冷泉はカナルシティを出て、博多駅と向かう。
はかた駅前通りを二人で歩きながら、また映画の話で口論になっていた。
「冷泉。そんなにタケちゃんの映画をディスるなら、お前が観てきた作品で一番おすすめを教えろ」
「別にディスったわけじゃないって言っているでしょ? ただ私には合わなかっただけ。ま、まあ……タクトがそんなに私の好きな映画を観たいなら、教えてあげてもいいのだけど」
なんて頬を赤らめる。
「いや。別に観たいわけじゃない。お前がタケちゃんの映画が退屈だとぬかしやがるから、お前の好きな映画がどんなにクソか知りたいだけだ」
「なんですって! ハァ……最低な男。まあいいわ。それなら、明日またカナルシティで会わない? どうせ、タクトも学校休むんでしょ?」
「まあな」
成り行きでまた明日も会うことになってしまった。
「私の好きなDVDを持ってくるから」
「なるほど。なら期待して待ってやろう。どんなクソ映画か、楽しみだ」
「あなたねぇ……本当に最低」
気がつけば、博多駅の中央広場に着いていた。
そこで、ふと思う。
この女の住所も連絡先も知らない。
広大な敷地のカナルシティで落ち合うのは、ちょっと難しい。
人も多いだろうから、もっと分かりやすい場所。目印になるところが良い気がする。
「うーむ……」
辺りを見渡してみた。
右手に交番が見える……その奥に小さな銅像が。
確か、黒田節の像だったか?
あれなら、目立つ場所だし、待ち合わせ場所に持ってこいだな。
「おい、冷泉」
「なによ?」
「明日DVDを持ってくるのは構わんが、待ち合わせ場所がカナルシティでは広すぎるし、人も多いから、クソチビなお前を探すのは至難の業だ。そして、迷子になるだろう」
「あなたね……しれっと人の事を悪く言わないでくれる? まあでも一理あるわ」
「だろ? そこでだ。あそこに立っている黒田節の像で待ち合わせしないか? あそこなら、クソチビのお前でも一発で見つけられる」
「わかったわ。ただし、クソは余計よ」
名前以外、特に素性も知らない生意気な女と、明日も遊ぶ約束をしてしまった。
まあ俺も物事を白黒ハッキリさせないと気がすまない性格だ。
この女が勧める映画をクソかウンコか、ちゃんとこの目で判断してやらんと。
明日、俺にディスられて、このクソチビ女が涙目になっている所を想像すると、笑いが止まらんな。
「タクト。なにをニヤニヤしているのよ? 気持ち悪い」
「あ、いや……明日が楽しみでな」
こいつをどん底に突き落とすのが。
「楽しみ……?」
目を丸くして驚く冷泉。
と思ったら、頬を赤くして、もじもじする。
「そりゃあな。博識な冷泉が勧める映画だからな」
俺は嫌味をたっぷり込めて、そう彼女に言ってやった。
「わかったわ……でも、その冷泉っていう呼び方やめてくれる? 不快なのだけど」
「へ?」
低身長だから、どうしても上目遣いになる。
そして、青い瞳を潤ませて、こう呟く。
「私がタクトって呼ぶんだから、あなたもマリアって呼んでよ。不平等じゃない」
なんて言いながら、身体をくねくねさせる。
「不平等? まあ、そうだな。なら俺もお前を今後マリアと呼ばせてもらう。光栄に思え」
「ハァ……タクトって友達いないでしょ?」
いたら、一人で映画なんて観に来るかっ!
「と、友達ぐらい……い、いるとも…たぶん」
痛いところを突かれた。
「奇遇ね。私も友達いないのよ」
ここにぼっちが集ってしまった。
なんて辛い告白なんだ。
マリアは何か重大な決断をしたようで、小さな胸に手を当てて、深く息を吸い込む。
そして、俺の目をじっと見つめる。
「タクト。私と友達にならない?」
そう言うと、小さな手のひらを差し出す。
驚いた。
クソ生意気な年下のくせして、この天才の俺と友達になりたいだと。
だが、不思議と嫌な気にはならない。
「フンッ……仕方ないな。なってやるよ」
俺はマリアと握手を交わした。
その時だった。
生意気で冷徹な表情ばかり見せる彼女の顔に変化が起こったのは。
「ありがとう」
今日初めてみる顔つき。
俺の手を掴み、優しく微笑む。
強い風が俺とマリアの間をと突き抜けていく。
だが、彼女は俺と掴んだ手をぎゅっと握ったまま、離さない。
反対側の手で、長い金色の髪をかき上げて、嬉しそうに笑っていた。
「ふふっ」
ここで俺はあることに気がつく。
マリアは笑うと天使のように可愛いことが。