気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
宣戦布告
「なによ。この、ブリブリ女は!?」
スマホを持つ手がブルブルと震える。
ピンクの小さな唇を噛みしめて、怒りを露わにしていた。
「あ、あの……」
「こんな男に媚びまくったファッションの地雷女が、私からタクトを奪ったっていうわけ!?」
ギロッと俺を睨みつける。
「その子は……ちょっと変わった子でな。色々と事情があるんだ」
まさか、10年越しの大恋愛を奪ったのは、男の子でした♪ とは言えないもんな。
「変わった子って……タクト。あなた、こんな分かりやすいハーフの地雷女子を好きになったわけ? 私より?」
ずいっと身を乗り出して、俺の顔を下からのぞき込む。
先ほどまで、揉ませて頂いたノーブラの柔らかい美乳が当たって、とても気持ち良い。
と、喜んでいる場合ではない。
アンナを守ってやらないと。
「マリア……実は今回のラブコメを書くに当たって、俺は取材をしているんだ」
「え、取材?」
「ああ、そうだ。これは博多社の担当編集が業務命令として、『恋愛を体験して来い』と強制的に現在の高校に入学させた……という経緯がある」
よし。全部、ロリババアのせいにしておこう。
「そういうことだったの……だから二年遅れの入学というわけ」
二年遅れなのは、俺がただ無職だから、という補足は敢えてしない。
「おっほん……そこで、とある友人ができてな。男なんだが、そいつが俺に『恋愛を取材するなら相手が必要だろ☆』と紹介してくれたのが、スマホに映っているカワイイ彼女。アンナだ」
そう言った瞬間、マリアの整った顔がぐしゃっと歪む。
「今、カワイイって言ったように聞こえたのだけど?」
ヤベッ。つい本音が出てしまった。
「いや……友人のいとこが、そのアンナだ」
「ふーん……」
記憶力の良いマリアは、白けた目で俺を見つめる。
※
マリアに今まで起きた出来事。自分が書く小説には実体験が必要だいうこと。
それには、取材が必須で、ヒロインのモデルであるアンナは、あくまでも協力しているだけの関係。
他にもサブヒロインとして、赤坂 ひなたや北神 ほのか。あと、おまけで長浜 あすかの三人が候補として上がっていることを説明した。
それで、“気にヤン”を書き上げるためには、どうしても取材を続ける必要がある。
担当編集の白金からも、それを仕事として、半ば強要されていたことも話した。
ていうか、全部あのロリババアが悪い。
俺の説明をマリアは黙って聞いていた。
しばらく顎に手をやり、考え込む。
「どうだろう? これで納得できたか? 俺は今作家として、アンナが必要なんだ。これも仕事の1つなんだ。だからあの時の……10年前の約束は守れないんだ」
「……」
こちらには目も合わせてくれない。
ただ沈黙を貫く。
「あ、あの……マリアさん?」
「……」
俺が怒っているかとびくびくしていると、彼女はいきなりベンチから立ち上がる。
「決めたわ!」
「え?」
立ち上がったマリアの顔は、眩しいぐらいの笑顔で俺を真っすぐ見つめる。
「つまり、今のタクトって。カノジョ候補……いや花嫁候補を探しているってことよね?」
「いや……決してそういうわけじゃ……」
俺のいう事に、マリアは耳を傾けることはなく。
「なら、私も……いいえ。婚約はまだ破棄されていない状態ね。アンナって子には大事なタクトを奪われて、腹が立つけど。でも、まだ可能性はあるわ。だってあなた達ってまだそういう事してないのよね?」
「ん? どういうことだ?」
俺が首を傾げていると、マリアは恥ずかしそうに向こう岸の建物を指さす。
対岸にズラーっと並ぶのはピンク色のラブホテルだ。
「あ、あそこに行ったことがあるのかってことよ!?」
ファッ!?
もちろん、俺もアンナも童貞と処女の関係性? だが……。
しかし、マリアの質問に答えるならば、行ったことはある。
ただ、行っただけ。コスプレ写真は堪能したか……でもパソコンに永久保存しているけど。
「それは……ない、よ?」
なぜか疑問形で答える。
視線はマリアから逸らして。
「ちょ、ちょっと! なによ、その歯切れの悪さ! タクトはまだ童貞なんでしょ?」
「も、もちろん、童貞だ! 断じて嘘ではない!」
それだけは否定しておきたかったので、思わず前のめりになって、叫ぶ。
「私だって処女よ!」
彼女も興奮しているようで、俺に負けないぐらいの大きな声で叫んだ。
気がつけば、辺りにたくさんのギャラリーが出来ていた。
「おいおい、あの二人。今からラブホに行くのか?」
「まだ未経験だって。それをあんな大きな声で叫ぶ。フツー」
「二人とも食べちゃいたいわ!」
最後のやつ、両刀使いですか。
申し訳ないですが、帰ってください。
突き刺さる無数の視線が痛い。
お互い恥ずかしくなって、博多川から逃げることにした。
「タクトが正直に答えてくれないから、恥をかいたじゃない!」
「お、俺は噓をついてない。マリアならわかるだろ!」
その後、俺たちは全速力ではかた駅前通りを走り抜けた。
赤っ恥をかいてしまったが、博多駅に着くころ、なぜかマリアは笑っていた。
「ハァハァ……タクト。私も取材に参加していいでしょ?」
肩で息をしながら、彼女は俺に問いかける。
「ああ……取材なら話は別だ。マリアも“5人目”になるか?」
俺がそう言うと、マリアは鼻で笑う。
「いいえ。私はタクトの初めての読者で、婚約者よ? 目指すのはファーストのみよ」
そう言って、俺の心臓辺りを細い人差し指で小突く。
「絶っ対、逃がさないわ。あなたを」
俺は黙ってその姿に見惚れていた。
はにかんで笑う彼女に。
長い金色の髪をかき上げ、大きな2つのブルーアイズを輝かせるその子に。