気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

読書は趣味じゃないらしいっすよ……


 翌日の朝。
 俺は博多駅へと向かった。
 指定された銅像の前で、ひとり彼女を待つ。

 考えたら、昔に待ち合わせしていた場所も、この黒田節の像だったな。
 ガキの頃だったけど。
 ひょっとして、無意識のうちに、あの頃の癖が抜けないのか?

 そんなことを考えていると、一人の小柄な少女が目の前に現れた。

 黒を基調としたシンプルなデザインのミニワンピース。
 胸元には白くて大きなリボン。
 細く長い2つの脚は、黒いタイツで覆われている。
 ローヒールのパンプスにも、白いリボンがついていた。
 
 ピンクやフリルを好むアンナとは、正反対のファッションだ。
 だが、似ているところと言えば、その顔だ。

 小さな顔に反して、大きな瞳が2つ。
 美しい金色の長い髪を肩まで下ろして、微笑む。
 双子ってぐらい、アンナとそっくりだ。
 違うところは、瞳の色が、ブルーサファイアってことぐらい。


「おはよう。タクト」
「……」

 その姿に、思わず見惚れてしまった。
 彼女の挨拶に答えることもできず……。

「タクト?」
 低身長だから、自然と上目遣いになる。
「あ、ああ……。すまん、マリア。おはよう」
 慌てる俺を見て、なんだか嬉しそうに笑うマリア。
「ふふ。どうしたのかしら? なんだか、10年前とは違うわね。あの横柄な態度の彼はどこに行ったのかしら」
「う、うるさい……」

 あの頃とは違う。
 どことなく、成長した大人としての女性に感じる。
 もうガキ扱いはできない。
 彼女の言う通り、友達の関係じゃないような気がした。

  ※

 はかた駅前通りを二人で歩く。
「ふぁあ……」
 小さな口に手を当てて、あくびを繰り返すマリア。
 碧の瞳に薄っすらと涙を浮かべて。

 それを隣りで見ていた俺が問いかける。

「どうした? 映画でも徹夜したのか?」
「いいえ……読んでいた小説が楽しくて、朝まで読んじゃったから」
 そう言いながらも、あくびをしている。
「は? 小説を徹夜した? 寝ろよ。今日はタケちゃんの映画を観る取材だろ」
 ちょっと、キレ気味になってしまった。
「怒らないでくれる? タクトなら知っているでしょ。私の活字好きが」
「え、わからん……」
 俺がそう答えると、彼女はガクッとうなだれてしまう。

「あのね……だからタクトを作家として、応援していたのでしょ?」
「はぁ……」
「なによ、その反応。タクトって仮にも作家なんでしょ? あなたも小説ぐらい読むでしょ?」
 俺はその問いに、キッパリと答える。
「読まないぞ」
 マリアはそれを聞いて、小さな口を大きく開いて、驚いていた。

「あなた……そんなんだから、作家として大成できないんじゃない?」
 冷たい視線を感じる。
「他の作者の小説なんて、読まないな。文字を読むのが面倒だからな……強いて言うならば、タケちゃんの作品ぐらいだ」
「はぁ……タクト。もうちょっと、色んな作者さんの作品を読んだ方が良いわよ」

 ダメね、この子みたいなお母さん的な目で、見られてしまった。

「そうか? 俺は映画で充分だ」

 深いため息をついたあと、マリアはこう持論を展開させる。

「あのね。文章力や描写とか。他の作者さんが描く文章を読めば、色々と学べるはずよ。私は読む事しかしないけど……毎日5冊ぐらいは読むわよ?」
 俺はそれを聞いて絶句する。
「ちょっと待て……5冊ってことは、一冊を10万字と仮定して、50万字も読んでいるのか!?」
 書き専からすると、驚愕の数字になる。
 だが、マリアは真顔でこう答えた。

「普通のことでしょ。読書なんて、人間の三大欲求の1つに近いものよ。よく履歴書とかに趣味として『読書です』とか答える文学少女もどきを見かけるけど……文字を読むって呼吸に近しいことだから、生きるために必要なことじゃない」
「……」

 ちょっと、作家業をやめてきて良いですか。
 もう、僕は映画監督を目指してきます……。
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