気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
プリクラの加工に騙されちゃダメっすよ
たらふく、ハンバーガーを食い終えたところで、ようやく映画館へと到着。
待ちに待ったタケちゃんの新作であり、初めての続編でもある映画。
『作家レイジ ビヨンド』
前作の『ヤクザレイジ』が大好評だったこともあってか、タケちゃん初のシリーズ化だ。
映画館の前に飾られているポスターを見て、俺も興奮してきた。
「おお! これが新作か! マリア、早く入ろう」
そう言って、隣りの彼女に目をやると……。
俺とは正反対の方向を見つめていた。
映画館のチケット売り場のすぐ後ろにある店だ。
ゲームセンターの一部であり、最新のプリクラ機が大量に設置されている。
以前、アンナと入った店だ。
まあ俺もあの時以来、来たことがないし、撮る必要性もない。
生まれて初めて撮ったプリクラだったが……。
もし、アンナが誘わなかったら、一生撮ることはなかっただろう。
「ねぇ。まだ上映まで時間あるのでしょ?」
碧い瞳を輝かせるマリア。
「ああ……。プリクラに、興味があるのか? なんかマリアらしくないな」
俺がそう言うと、彼女はムッと頬を膨らませて睨む。
「失礼ね。私だって女の子なのよ。それに言ったでしょ? 今回の取材のテーマ」
「え? テーマ?」
首を傾げて考えていると、マリアが俺の胸を人差し指で小突く。
「あなたのハートを奪い返す……つまり、記憶の改ざんよ♪」
「?」
※
チケット売り場で座席だけ、指定しておいたので、後で困ることはない。
安心して、プリクラを撮れる。
だが、俺はマリアの言う『記憶の改ざん』が理解できずにいた。
真剣な顔でプリクラ機を選ぶ彼女に、もう一度聞いてみる。
「なぁ。俺の記憶と、このプリクラに何の意味があるんだ?」
そう言うと、マリアは「ふふ」と微笑んで、トートバッグから一冊の小さな本を取り出した。
「答えは、この中にあるわ」
表紙を見れば、どこかで見たことあるライトノベル……。
『気になっていたあの子はヤンキーだが、デートするときはめっちゃタイプでグイグイくる!!!』
作者、DO・助兵衛。絵、トマト。
俺の作品じゃねーか!
「これって、この前発売した俺の作品じゃないか……」
「ええ。穴が開くほど読み返したわ。特に、初デートのくだりをね」
「ん? デート……はっ!?」
ここでようやく気がついた。
彼女が言う、初デートのことを……。
そうだ。俺とメインヒロインであるアンナが、初めて取材した場所は、このカナルシティだ。
二人で観た映画もタケちゃんの作品だったし、そのあとプリクラを撮影した。
つまり……アンナが取材した場所や出来事を再現。
いや、マリア自身によって、俺の記憶を上書きしたい、ということか。
マリアは下から俺をじっと見つめる。怪しく口角を上げて。
「どうやら理解できたようね。さ、タクト。ブリブリ女との差を見せてあげるわ」
「おお……」
※
なんて勝ち誇った顔をしていたマリアだが。
どうやら、彼女自身もプリクラを撮影するのは、生まれて初めてらしく。
どの機械が良いのか、さっぱり分からないようだ。
周りには若い女子高生やカップルで、ごった返している。
そのため、自然と長い列が出来てしまい、機械を選んでいるだけで、置いてけぼりになってしまう。
焦り出したマリアが怒りを露わにする。
「な、なによ! 高々、写真を撮影するのに、こんなに並んでバッカじゃない!」
良いながらも、かなり動揺しているようだ。
こういうところは、ぼっちの俺に似ているな。
仕方ないので、フォローに入る。
「マリア。俺もあまり詳しくないが、全身が撮れて、尚且つ加工の少ない機械が良いって聞いたぞ」
この話は、全てアンナから教わったものだが……。
「フ、フン! じゃあ、それにしましょ」
結局、半年前に撮影した同じプリクラ機で撮影することにした。
改ざんになっているのか?