気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

生まれて来てくれて……ありがとうっ!(推しのお母さまへ)


『トゥルル……おかけになった電話は現在、繋がらない状態か、電源を入っていないため……』
「またか」

 ミハイルに電話する勇気が出たのは良い事だ。
 しかし、肝心の本人が電話に出てくれない。

「やはり、怒っているのか……」

 この前のスクリーング。
 クリスマス会での、アームレスリングにおいて、マリアが語った過去。
 アンナとした初デートが、実はマリアとの定番デートだったこと……。
 その事実にミハイルは動揺し、完敗。
 
 更に追い打ちをかけるように、マリアがほっぺチュー事件を起こしてしまう。
 嫌なことが重なり。彼は現在……心を完全に塞いでいるのかもしれない。

 だが、それじゃダメだ。
 クリスマス・イブのデートは、一緒に過ごせない。
 それでも、俺はあいつを……アンナを祝いたいんだ!

 ちょっと意地の悪いやり方だが、こうなれば、方法は選んでいられない。
 仕方ないので、『もう1人』に連絡をすることにした。

 唯一、俺がL●NEでやり取りをしているあの子。
 ミハイルとは別人格だから、取材相手として、連絡がとれるかもしれない。

 とりあえず、メッセージを使って、軽く挨拶をしてみる。

『アンナ。久しぶりだな。良ければ23日に取材をしてくれないか?』

 すぐに既読マークがついたが、スルーされたようだ。
 クソッ……これでもダメなのか。
 だが、俺も後には引けない。

『すまない。取材というのは、噓……いや、照れだ。アンナの誕生日を祝いたいんだ。頼む』

 彼女に無視されたくない一心で、包み隠さず本音で伝えてみた。
 すると……。

 既読マークがついた途端、スマホから着信音が流れ出す。
 相手は、アンナ。

『タッくん☆ 久しぶり~☆ メッセージ見たけど、ホントなの!?』
 めっちゃテンション高いですやん。
 なら、さっさと電話に出ろよ。
「ああ。前々から考えていたことだ。その……ミハイルからクリスマス・イブのことは、聞いているか?」
『う、うん……なんか罰ゲームで、マリアちゃんと一緒に過ごすんでしょ』
 誰も罰とは言ってないのに。
「そうだ。でも、それは取材だ。仕事にすぎん」
 言っていて、苦しい言い訳だと思う。
『おしごと?』
「ああ、今年のクリスマス・イブは仕事で埋まってしまった。しかし、23日はお前の誕生日だ。その日は完全にオフ。俺が純粋にアンナを祝いたいから、やる。つまり特別な日にしたい……」
『特別……アンナの誕生日が?』
「そうだ。半年前、俺へしてくれたように……」

 しばしの沈黙のあと、彼女は照れくさそうに答える。

『タッくん……嬉しい。イブを一緒に過ごせないのは、残念だけど。誕生日を2人で過ごせるなら、アンナは大丈夫☆』
「ほ、本当か!?」
『うん☆ 元気が出てきた☆ 今から何を着るか、楽しみぃ~☆』
 良かった。だいぶ声が明るくなった気がする。
「ああ。待ち合わせはいつも通り、“黒田節の像”でいいか?」
『いいよ☆』
「じゃあ、またな」

 彼女の声を聞けたことで、ようやく穴が塞がった気がする。
 胸にぽっかりと空いてしまった大きな穴……。

  ※

 アンナの誕生日、当日。
 俺は博多駅の中央広場にある黒田節の像の下で、彼女を待つ。

 もうあと一週間ほどで、今年も終わる。
 博多駅の前には、明日のクリスマスを祝うために、巨大なツリーが建設されていた。
 行き交う人々もどこか忙しい。

 空を見上げれば、どこか暗く曇っていた。
 ひょっとしたら雪が降るのかもな。

 正直言ってかなり寒い。
 ダッフルコートを着ていても、ぴゅーぴゅーと横風が身体の中を通り抜けて行く。
 でも、なんか今年は、不思議と胸のあたりが暖かく感じる。
 何故だろう……。

「タッくん~! お待たせ~☆」

 そう言って、目の前に現れたのは、金髪の美少女。
 アンナだ。
 今日のファッションは、至ってシンプル。
 全身真っ白のファーコート。衿には大きなパールがデザインされているものの。
 気温が低いせいか、ボタンは全部しっかりと留めている。
 これではコートの中が見えない。
 まあ、丈の短いデザインだから、相変わらずその細く美しい脚は拝めるのだけど……。
 なんというか、いつも露出してくれているありがたみが、再確認できた。

「お、おお……久しぶりだな」
 アンナは俺の顔を見て、すぐになにかを察したようだ。
 頬を膨らませ、上目遣いで俺を睨む。
「タッくん。今日のファッション。つまんないんでしょ?」
「いや……そういうわけじゃ」
「アンナだって、こんなに寒くなかったら、コート脱げるよ」

 そう言って、大きな緑の瞳を潤わせる。
 参ったな……見透かされていたのか。

「すまん。俺も女の子と冬を過ごすのは初めてでな。あ、でも頭につけている髪飾りか? コートと同じなんだな」
 どうにか話題を変えようと、頭につけているカチューシャを指差してみる。
「あ、わかった? これ、コートと同じでパールなの。あとね、手袋とバッグもお揃いでぇ……」

 聞いてもないのに、ベラベラと喋り出したよ。
 ま、いっか。

「しかし、今日は冷えるなぁ。雪が降るかもしれん」
「うん。ホント、寒いねぇ~ こんな日に生まれてごめんね☆ もっと暖かい日に生まれたら、コートもいらないのに」
 とウインクしてみせる。

 いや、生まれて来てくれてありがとう。
 というか、暖かいホテルに連れて行けば、コートも脱げるよね?
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