気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

イブだからってカップルだと思ったら、大間違いだよ!


 筋男くんと育子ちゃんは、こんな日でも募金活動に勤しむらしい。
 恵まれない子供たちのために。
 彼らは受験生だが、この日だけは、在校生と活動を頑張りたいようだ。
 なんでも、卒業してもみんなで聖夜に募金を頑張ろう! と意気込んでいるのだとか。

 これには俺も、昨年彼らに吐き捨てた『偽善行為』という言葉を、撤回しなければならない。

「筋男くん。育子ちゃん。悪かった……君たちのことを偽善だと言ってしまって」
 そう言って、頭を下げると、2人は首をブンブンと左右に振り、慌て始める。

「いいえ! 私たち、好きでやっているんで!」
「そうです! 逆にあの日、ドスケベ先生が言ってくれなかったら、きっと僕たちは活動を止めていたと思います」
「そうか……なら、俺は君たちを信じていいんだな?」
 俺がそう言うと2人はお互いの顔を見つめ合う。
「「え?」」
 
「来年も、再来年も、そのまた3年後も。毎年、お前たちが活動をしているか、見に来てやるよ」
 たった1人の言葉が、ここまで彼らを動かしたのなら、更に俺の言葉でその信念を強くしてやろうと思った。
 まあ、いじわるでもあるが……。

 だが、俺のそんな傲慢な態度すら、2人はクスクス笑い始める。

「ドスケベ先生なら、そう言うと思っていました!」
「負けませんよ! 毎年、見に来てください! ドスケベ先生」

「ハハハッ……頼もしいな。それより、君たち。いい加減、そのペンネームを使うのはやめなさい」
 最後の方は、かなり口調を強めたが。
「「分かりました。ドスケベ先生!」」
「……」
 仕方ないか。
 
  ※

 筋男くんと育子ちゃん達と別れ、俺とアンナは再度イブの取材を始める。
 アンナが「身体が冷える」と言うので、なんか暖かいものでも飲もうと提案。
 近くにあった屋台へと入ってみる。

 メニューを見るより前に、その独特な甘い香りが不快に感じる。
 しかし、これは俺個人の問題だ。
 その証拠に、アンナは手を叩いて、喜んでいる。

「うわぁ☆ チョコのいい匂いがするぅ~ ホットチョコレートだって! 飲みたい!」
「そうか……じゃあ買おう」
 チョコが嫌いな俺は、絶対に飲まない。

 屋台の中で、大きな鍋をかき回すお姉さんに声をかける。

「すいません。ホットチョコレートを1つ下さい」
「お1つで、よろしかったですか?」
「ああ……じゃあ、ホットコーヒーってあります?」
「ございますよ」
「なら、それを1つ。ミルクも砂糖もいりません」
「かしこまりました!」
 
 お姉さんとの会話を、隣りで聞いていたアンナが、クスリと笑う。

「タッくんたら、イブでもブラックコーヒーなんだね☆」
「まあな……」
「でも、寂しいな。チョコが苦手じゃなかったら、一緒に飲めたのにね☆」
「すまん」

 そうこうしているうちにお姉さんから、商品を渡される。
 アンナのホットチョコレートは、マグカップ付きで持って帰れるのだとか。
 俺は紙コップに、暖かいブラックコーヒー。

 うむ、香りはナイス……と匂いをかいでいると、どこからか、怒鳴り声が聞こえて来た。


「お客様! や、やめてください!」
 隣りの屋台からだ。
 若いお兄さんが、客に注意している。
「うるせぇな! 私は客だぞ!? ガタガタ言わずに、もっとワインを入れやがれ!」

 悪態をついている客をよく見てみると……。
 全身ツルツルテカテカなボディコンを、着た卑猥な女性が、顔を真っ赤にして叫んでいた。
 あんな立ちんぼガールは、1人しかいない。
 俺たちの担任教師、宗像 蘭先生だ。

「おかわりでしたら、有料ですので、お金を払ってください!」
「なんだと、コノヤロー!? 教師を敵に回すのか? お前の出身校を教えろ! 私はこう見えて、顔が広いんでな」
 酷い。自分のコネクションで脅しにかけてる。
 
「な、なにを言っているんですか……酔っているのはわかりますが、カスハラですよ?」
「ハラハラうるせぇな! そんなこと言ってたら、何も出来ないだろがっ! ワイン、もっとよこせ!」
「もう、この一杯だけですよ? 内緒ですからね」
 お兄さんがそう言うと、宗像先生の態度は一変し、優しい笑顔になる。
「ありがとぉ~ お兄ちゃん。優しいねぇ、今晩どう? 何時に終わるの? お姉さんが相手しようか」
 うわ……カスハラの次は、セクハラだよ。
 こんなのが担任教師だなんて、恥ずかしい。
 
 しかし、そんな発言にもお兄さんは、顔色変えず一言。
「いえ、結構です」
 目も合わせずに、マグカップにワインを注いで先生へ渡した。
「うへへへ。恥ずかしいのかな? タダでヤレちゃうんだよ?」
 まだ懲りない宗像先生だったが、お兄さんは至って冷静で。
 黙って背中を向け、別の仕事を始めだした。
「……」
 
 イブなのに、酒で寂しさを紛らわしているのか。
 ていうか、あんな大人にだけは、絶対になりたくない。

 俺がずっと隣りの屋台を眺めていた為、アンナが心配して、肩を指で突っつく。

「ねぇ、どうかしたの? 誰か知り合いでもいた?」
「いや……見間違えだ。ちょっと変な酔っ払いがいてな。ここじゃ安心して飲めそうにない。場所を変えないか?」
 宗像先生に見つかったら、面倒くさいし。
「いいよ☆ イブなのに、お酒で酔っぱらう人って、なんか寂しいよね。イルミネーションも楽しめないし、みんなでパーティー出来ないもん☆」
「そ、そうだな……」

 宗像先生、愛する生徒にめちゃくちゃ言われて……かわいそう。
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