気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
第四十九章 どこかで誰かが見ている。

ファッションってのは自由ですから……。


 まだ”三が日”の二日目だというのに。
 朝早くから、電車に乗りこみ……博多へと向かっている。

 今回の目的は、取材なのだろうか?
 正直、博多にこだわらなくても、良い場所だ。
 だって、ラブホテルだもの。
 田舎でもあるだろうに。

 去年、俺がひなたやアンナとラブホテルへ行った……と作品に書いてしまったため。
 マリアが例の如く。記憶の改ざんを行うため、三度同じホテルへ行くことになった。

 なにが楽しくて、童貞が3回もラブホテルへ行くんだ……。

 そう思いながら博多駅の中央広場へと向かう。
 説明は不要だと思うが、一応……黒田節の像で、待ち合わせすることになっている。

 ジーパンのポケットから、スマホを取り出すと。
 何件かメールが入っていた。
 ミハイルからだ。

『タクト。お正月を楽しんでる? オレはね、今勉強しているの☆ ほら、もうすぐ一ツ橋高校の期末試験じゃん? だから、返却されたレポートを頑張って覚えているの☆』

「ぐっ!?」

 その文章を見た瞬間、胸に激しい痛みを覚える。
 罪悪感からだ。

 アホのミハイルが、お正月だというのに。
 期末試験の勉強だと!?
 昨年と違い、めっちゃ真面目になってる。

 きっと……俺と一緒に卒業したいから、苦手な勉強を頑張っているんだろう。
 まあ、天才である俺は、あんな動物園の試験なんて、予習復習する必要はない。
 しかし、そんな頑張っているミハイルを思うと。
 今から行く場所に、ためらいを感じる。

 とりあえず、ミハイルのメールに返信を送ることにした。
『正月から偉いな。そんなに頑張っているなら、今度の試験は良い結果になるかもな』
 それに対して、すぐに彼から返事が届く。
『ホント!? じゃあ、頑張る☆ タクトはなにしているの? 勉強?』

 いかん、この回答に失敗すれば、ミハイル……いや、アンナがホテルへ襲撃に来るはずだ。
 それだけは阻止せねば……事件になりかねない。
 言葉を選び、慎重にメッセージを打ち込む。

『俺はミハイルが作ったお雑煮とおせち料理で、お腹がいっぱいだ。それでちょっと休んでいる』
 うむ。これならば、彼が不快な思いをしない。
 尚且つ、マリアの存在も隠せる。
『そっか~☆ タクトがひとりで食べちゃったんだぁ☆ じゃあまた来年も作るよ☆ お腹を横にして休んだ方がいいよ。またね、タクト☆』

「よし……今回は大丈夫だ」

 小さく拳を作って、勝利を確信する。
 いや、恐怖が薄れたにすぎない。
 背後からマリアを刺す……恐れがあったからな。

  ※

「ごめんなさい。待たせでしょ?」

 視線を上げると、ひとりの少女が目の前に立っていた。

 金色の長い髪に、宝石のような碧い瞳。
 こちらをじっと見つめて、笑みを浮かべる。
 待っていた人間が、俺だと分かったからだろう。

「いや、そこまで待ってないさ。マリア」
 彼女の名前を口に出すと、嬉しそうにする。
「ふふふ。ごめんなさいね。ちょっと寝ぐせが直らなくて……」
「ほう。俺は別に髪型なんて、気にしないが」
「私が気にするのよ! タクトって本当にデリカシーがないわね!」
 
 笑ったと思ったら、怒ったよ……。
 なんで?


 今日のマリアも、ファッションは普段と変わらず。
 黒を基調としたシンプルなデザインのワンピースを着ている。
 胸元には、白い大きなリボン。
 細くて長い脚は、白のタイツで覆われている。

 まあ真冬なので、上着として、ファーコートを羽織っているが。

 しかし、あれだな。
 アンナとは違い、なんというか色合いがシンプルで、つまらない。
 それでいて、毎度同じ服を着ているような……。

 俺はその疑問をマリアにぶつけてみた。

「なあ……気になることがあるのだが、聞いてもいいか?」
「え? タクトが私に質問なんて……珍しいわね。良いわよ、なんでも聞いて♪」
 そう言って、胸を張るマリア。
 ノーブラだから、トップが透けてしまいそう。
「あのさ。お前ってなんで毎回、同じ服を着ているんだ? 1着しか持ってないのか?」
 俺がそう言った瞬間、整った彼女の顔がグシャっと歪む。
「はぁっ!? 私がそんな貧乏に見えるの!? 失礼ね! こう見えて、アパレルブランドの社長よ! ファッションには気を使っているわ!」
 また怒られてしまった。

「しかしだな……俺から見るに、同じ色のワンピースを、着ているように見えるのだが」
「それは、タクトの目が腐っているからよ! 分かる人には分かるの!」
 確かに俺は、ファッションには疎い。
 でも、素人から見ても、同じ服にしか見えない。

「じゃあ……同じように見えても、全然違うファッションなのか?」
「そうよ! こう見えて、私は自分でデザインした服を着ているの。モデルもやっているわ。だから宣伝も兼ねて人気の商品を、自ら着て歩いて回るのよ」
「つまり、今一番人気な商品だから、着ているということか?」
「ええ。今着ている服も全て、売れているベスト5から決めたわ!」
「なるほどな……」

 でも、その考えだと。
 売れ行きによって、自身のコーディネートがランキングで固定されるんだろ?
 じゃあ、変動がない限り、同じ服じゃんか。

 なんか前にもこんな話を、誰かとしたような……。
 あ、退学した制服を大量に購入し、着回している北神 ほのかと話した時か。
 俺は年がら年中、タケノブルーだけ着ているから、関係ないね。
 このブランドだけで良し。俺はマリアと違う。
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