気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

中途採用

「トマトさん……盗撮はダメですよ」
 俺はバカ編集白金の犯罪ほう助を事前に防いだ。
 そもそも業務連絡で『JKを盗撮』とかバカすぎだろ。

「ええ~ トマトさんもモデルがいないと書けないっしょ! だって童貞だし……」
 サラッと人の恋愛経験を晒すな、白金。
「ご、ごもっともです……僕は今年で25歳なんですけど、生まれてこの方、女の子と付き合ったことないので……」
 ちょっと涙目じゃないですか!? トマトさん!
 大丈夫です! 俺も童貞ですから!

「ま、まあそれと女の子のイラストを描くのは別なのでは?」
「いえ、僕もやはりモデルがいると、いないとでは全然違いますよ」
 そんなものだろうか?
「なるほど……」
 俺とトマトさんは互いに俯いて、「う~ん」と唸る。

「じゃあDOセンセイのモデルを見せてもらったらどうです?」
 白金が人差し指を立てて、提案する。
「はぁ!?」
 思わず、大声を出してしまう。
 だってモデルってミハイルことアンナちゃんだもの。

「それはいいですね」
 頷くトマトさん。
「でしょ♪ じゃあDOセンセイはこのヒロインのモデルの方を私たちに連れてきてもらって……」
 と言いかけたところで俺が止めに入る。
「却下だ!」
 拳でテーブルをダンッ!と叩きつける。
 普段、あまり感情的にならないせいか、白金もトマトさんも驚きを隠せなかった。

「ど、どうしたんです?」
 目を丸くする白金。
「ヒロインのモデルは訳ありな子なんだよ……だから直接取材は却下する」
 だって男の子なんだもん。

「そうですか、困りましたねぇ……」
「ま、まあDO先生の大切なカノジョさんですしね」
 ちょっといやらしい目つきで俺を一瞥するトマト……いや豚か。
 なんか変なことでも想像してんだろうな。

「トマトさん、彼……いえ、彼女は立派な取材対象であって恋愛対象ではありません。ですが、先ほども言った通り、彼女は事情があって簡単には紹介できないんですよ」
「そうなんですか?」
「ま、まあ深入りしてほしくないってことです」
 なんかわき汗が滲んできた。
 わしがなんでミハイルをかばわないといけないんじゃ!

「……」
 眉間にしわを寄せて、考え込む白金。
 しばしの沈黙の後、口を開いた。
「トマトさんって確か高校中退者じゃないですか?」
「あ、はい。恥ずかしながら2年生の時に……」
 そうだったんだ。

「なら、今から高校に入れば、リアルJKと出会えるでしょ♪」
 ファッ!?
「え……僕、25歳ですけど……」
 浮くこと間違いなし!
「関係ないですよ。DOセンセイが今通学している一ツ橋高校に入学すれば、年齢は関係ありません。下手したら死ぬ前のじいさん、ばあさんが通ってますから」
 お前、サラッと高齢者のことディスるなよ!
 かわいそうなこと言いやがって!

「は、はぁ……」
「よし! トマトさんは秋から一ツ橋高校に潜入して、盗撮しまくってください!」
 潜入って……カメラは現地調達か?

「でも僕、あんまりお金ないです……」
「安心してください!」
 パンツははけよ。

「経費で落としますから♪」
「そ、それなら……」
 なん……だと?
 俺は経費で学費を落としてもらってねーぞ!
 新聞配達と少ない印税で払っているというのに!
 この待遇の差はなんじゃい!?
 やはり物書きとイラストレーターでは待遇が違うのか……。

「ちょい待て白金!」
「なんです?」
「俺はなんで経費で落とせないんだよ!?」
「だってトマトさんはイラスト一本で食っているプロですよ? DOセンセイみたいな二足の草鞋を履くようなセミプロと違ってお金がないんですもん」
「き、貴様……言わせておけば……」
「それにDOセンセイには色々と経費で落としているでしょ? 先月の領収書一覧見ます?」
 白金は一旦席を外して、編集部奥のデスクからレシートの束を手に戻ってきた。

「ほら? 経費で落としているだけでも感謝してくださいよ」
 全部、映画のチケット代。

「ええ!? DO先生って経費で映画を見ているんですか!?」
「ま、まあ小説家に映画は必要ですよ……」
「そこは小説じゃないんですね」
「……」
 クソッ! 豚のくせして的確にツッコミ入れやがる……。

「先月だけでも3万円以上、払っているんですけど?」
 白金のプレッシャーがパない。
 ロリババアのくせしてこういう時だけ大人っぽいんだよな。

「わ、わかったよ!」
「ならトマトさんは秋から一ツ橋高校に入学で決定ですね♪」
「うわぁ、何年も勉強してないけど、大丈夫かなぁ」
 大丈夫だろ、あんなバカ高校。

 また今度、映画でも観るか。(もち経費で落とす)
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