気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
第十一章 腐女子の乱

同人誌はみんなで仲良く読もう!

 俺は焦っていた。
 というのも、ここ最近アンナやひなたとのゴタゴタで肝心の小説を書いていなかったからだ。
 担当編集の白金から短編でいいから書き上げてこいと言われている。
 それを見て編集長が今後の俺の作家としての能力を見極めるのだとか?

 まあここはなんでも使っちまえ! と正直、自暴自棄でいた。
 生まれてこの方、女の子と縁なんてなかったのに、一ツ橋高校に入学してから、たくさんの人……女性に出会った。
 そして、童貞のくせしてラブホテルまで経験してしまったのだ。
 テンパるよ、そりゃあ。
 だって、人間だもの……その前に童貞だもの。

 俺は名前だけ変えて、ひなたも小説のサブヒロインのモデルとして登場させた。
 もはや、ノンフィクション作家と言ってもいいな。
 映画化でもしたら「これは実話である」なんてエンドロールの前にテロップが出るんだろう。
 ああいう映画が一番カッコイイと思うんだよな、個人的には。

 タイピングする速度が上がる。いつも以上に。
 元々、書きだしたら早いほうなんだが、今回のラブコメ作品に限っては実体験をそのまま書いているので、思い出して書く……これを繰り返すだけだ。
 あれ? ブログじゃね?

「よし、できた」

 テキストを上書き保存する。
 肩をほぐして休憩に入る。
 するとスマホが鳴った。
 着信名、ロリババア。

 クソがっ!
 いつも間が良すぎるんだよ。
 俺の家をストーキングしてんじゃねーのか?

「もしもし」
『あっ、センセイ! 進捗はどうですか?』
「フッ、できたぞ。王道のラブコメがな」
『ほうほう、それは楽しみですね♪ では、天神でお会いしましょう! ブチッ……ツーツー』
 一方的に切りやがった、あんのロリババアが。
 まあ夕刊配達まで時間はある。
 久々に天神で小説でも物色して帰るか……。

 俺はリュックサックにノートPCを入れると、それを背負って真島駅へと向かった。


 ~1時間後~

 俺は天神にある博多社の編集部にいた。

「す、すごい……」
 珍しく白金が驚いていた。
「これ……本当に童貞のセンセイが書いたんですか!?」
「失礼なことを言うな!」
 かっぺムカつく。

「だって……リアルJKとラブホに入るなんてレアイベントがあって、次の日にヤンキーのヒロインとラブホでコスプレパーティーとか、どんだけリア充なんですか!?」
「う……」
 いざ言葉にされるとこっ恥ずかしいものだな。

「これ取材を元に書かれたんでしょ?」
 いつになく真剣な眼差しだ。
「ま、まあな……」
「センセイ、モテ期到来じゃないですか!」
 いや、モテるのは女の子だけでいい。男が含まれているんだよ。

「それより、ストーリーはどうだった?」
「さい……こうっ! です!」
 今まで俺の作品でこんなこと言われたことない。
 なんか泣けてきた……。
 だって人が一生懸命書いてきたストーリーより、現実世界のことをちょっと書いただけで編集に褒められるとか、作家として終わりじゃん。

「なら……良かったな、はは」
 苦笑いして己を諭す。
「あんまり嬉しそうじゃないですね……でも、これなら絶対編集長からOKもらえますよ!」
「そ、そっか……そう言えば一つ質問していいか?」
「なんです?」
「実はその……前も言ったが、取材費のことだ」
「ああ、前も言われてましたね」
「ラブコメを書くには俺は取材が必要だ。だからデート……じゃなかった取材費用を経費で落としてくれないか?」
 俺がそう言うと白金は腕を組んで難しい顔をしていた。

「うーん……ちょっと、編集長と相談させてください。返答は後日連絡しますので」
 かなり困っているようだ。
 なんだかこの時ばかりは白金に罪悪感を感じてしまった。
 だって、取材と言えど、俺ってばしっかりデート楽しんでいるからね。
 白金はアラサーの独身で寂しいやつだから。
 可哀そうなんだよ……草は生えるけど。

「じゃあ、センセイ! 経費のことは後回しにして、とことん青春してくださいね♪」
「今、なんて言った?」
「青春ですけど……」
 この俺が青春だと。
「俺は今、青春しているのか?」
「してるじゃないですか♪ 私の言った通り、一ツ橋高校に入学して良かったでしょ♪」
 否定できなかった。
 確かに白金の命令がなければ、俺は永遠にぼっちだったろう。

「ああ……そうだな」
 俺はそう言い残すと博多社をあとにした。

 悪くないな……青春ってのも。

 天神のメインストリート、渡辺通りを歩く。
 北天神へ向かい、一際目立つ真っ赤なビルにたどり着く。

 そう。ここはオタクの聖地。
 『オタだらけ』
 7階建ての最強ビルである。
 一階はコミック、二階は男性向け同人誌、三階は女性専用同人誌、四階はコスプレ、五階はゲーム、六階は玩具、七階はヴィンテージもの。

 オタクが天神に来たら真っ先にここに向かうものだ。
 ああ、福岡市民でよかったぁとステータスを感じちゃう。

 俺はすぐさま2階に向かう。
 やっぱ同人誌だよな!

 お目当てのものを探す。
 それは何かというと、タケちゃんのヤクザレイジの同人誌だ。
 きっと新作が上映したばかりだから、どっかのサークルが出しているに違いない。

「おっ、これは……」
 手に取ろうとした瞬間だった。
「きゃっ!?」
 華奢な手が俺の手とペッティング……じゃなかった、触れ合う。

「すまん」
「いえいえ、私の方こそ……ちゃんと見てなくて」
 手の持ち主を見ると、白いブラウスに紺色のプリーツスカート。
 ん? JKか?
 眼鏡をかけたナチュラルボブ……見たことある顔だ。

「お前……北神か?」
「え? あ、新宮くん!?」
 この時、俺は彼女の恐ろしさをまだ知らない。
 声をかけたことをのちのち、後悔するのであった。

「新宮くんも買い物?」
 気さくに声をかける同級生、北神 ほのか。
 赤いかごにはどっさりと同人誌が……。
 いや、ここの階って男性向けばっかだよな?

「まあな、北神は何かを買いにきたのか?」
 どうせ、腐女子のことだ。BLだろうな。
「んとね……今探しているのは『ギャルパン』の凌辱もの♪」
「は?」
 俺は耳を疑った。
「あと、『俺ギャイル』のNTRとか、『バブライブ』のハーレムものでしょ……」
 おいおい、二次創作の大渋滞じゃないか。
 しかもそれ全部、成人向け。

「北神、お前は一体なにを言っているんだ?」
 思わず突っ込んでしまった。
「え? 抜ける同人誌の話でしょ?」
「……」
 か、勝てない……この女には勝てない!
 俺はそう確信したのだった。
 黙って背を向ける俺氏。
 
「あれ、新宮くん? どこへ行くの? 一緒にお買い物しようよ! そして互いに買ったエロ同人を見せ合おうぜ!」
 
 に、逃げられねぇ!
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