それはきっと、甘い罠。
「あれ?藍野ちゃーん、もしもーし聞いてる~?」
表情筋ですら固まってしまった私とは反対に、鞍馬君は不思議そうな表情でどんどん顔を近づけてくる。
かっ……カッコいい。
悔しいけどカッコいい。
パープルアッシュ色の髪は、染めているのに痛むことを知らないのかサラサラで短めのハーフアップにされていて。
切れ長の目は、獲物を捕えて離さないくらい鋭く妖艶。
鼻筋はスッと通っていて、真っ白な肌に目立つ赤色の唇は色気がだだ漏れでジッと無意識に見つめてしまう。
すっごくチャラくて、女遊びが絶えない噂ばかり耳にするけど。
確かにこの顔で甘い言葉を吐かれたら、女の子は誰だって好きになっちゃうかも。
だ、だからって私は鞍馬君に惚れたりなんかしないよ。
だって遊ばれるなんて絶対に嫌だし
私みたいな地味な子相手にするわけないって分かってるから。
いくら『可愛い』って言われたからって身の程をわきまえてる。
大丈夫……大丈夫だよ私。
自惚れちゃ、ダメ。
「あのさー、これ以上このみに近づかないでくれる?」
小型犬が威嚇するみたいに、なっちゃんが至近距離の私と鞍馬君の顔の間に手で割ってはいる。