夢花火降る

車両の奥から現れたのは紺碧色の制服を身に纏う青年だった。帽子を取り、軽く会釈をする。


「夢花火行きの電車へご乗車ありがとうございます。私は車掌のアヲイ。ここは、真夏の夢。目的が叶えば、忘れてしまうまぼろしとでもいいましょうか」



深い青に魅入られるように、その瞳を見つめる。水底に沈んだような不思議な感覚に囚われながら、一言呟く。



「……夢、ですか」



いまいち飲み込めないでいると、少年に怒られていたおじさんがはいはーいと元気よく手をあげる。鬱陶しいものでも見るような少年の瞳は冷ややかなものだった。


どうやら相当相性が悪いらしい。


「おっさんにはサッパリでーす」


「海の藻屑にでもなればいいのに」



ちっと舌打ちする少年は心底嫌そうに顔が歪んでいる。そんなに……?と思うほど、このおじさんには表情豊かだ。


そして車掌さんのアヲイさんはそうですねと思案し、それから車窓の方に視線を向けた。



「外の風景はみなさんの望んだもの……心の風景が反映されたものです。良いものかもしれないし、悪いものかもしれない。なので、くじらもまた誰かの夢のカケラなのです」



「ふーん」



おじさんは気の無い返事をし、少年は沈黙。その中で気弱そうな女の人だけが浮かない表情をしていた。



……くじらと何か関係が?




「目的地に着けばおのずとわかりますよ」



いつの間にかアヲイさんはもうそこにはいなかった。――不思議な人。そもそもほんとうに、人なの……? 後から後から疑問が押し寄せてくるものの、答えてくれるようには見えなかった。思わず深いため息をついてしまう。

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