「槙野だったら、何味にする?」
プロローグ
手袋の上に乗せた雪が、少しずつ液体に変わっていく。深いグレーの僕の手袋がどんどん黒さを増していく。手袋越しだとあまり感じなかった雪の冷たさが、液体になるにつれてじんわりと僕の手のひらを痛くしていく。
このままどんどん冷たくなって、感覚すら無くなってしまえばいいと思った。
「槙野だったら何味にする?」
頭の中で何度も何度もこだまするヤヨちゃんの声。あの日の空気も風の匂いも声色も、大好きなはずなのに見たくなかったヤヨちゃんの笑顔も、鮮明に憶えている。
忘れられないから、忘れたくないから憶えているだけだ。まだ消えないでと何度も願ったヤヨちゃんの声。僕の記憶の中にヤヨちゃんが在り続ける限り、僕はうれしくて幸せで、苦しくて、僕は僕で在り続ける。
それが偽物の僕だったとしても。
手のひらで新しく掴んでも掴んでも、雪はすぐに溶けて、ただ僕の手袋を重たくしていく。痛みだけを残して消えていく。
涙が滲む。
それはきっと、この痛みのせいだ。
このままどんどん冷たくなって、感覚すら無くなってしまえばいいと思った。
「槙野だったら何味にする?」
頭の中で何度も何度もこだまするヤヨちゃんの声。あの日の空気も風の匂いも声色も、大好きなはずなのに見たくなかったヤヨちゃんの笑顔も、鮮明に憶えている。
忘れられないから、忘れたくないから憶えているだけだ。まだ消えないでと何度も願ったヤヨちゃんの声。僕の記憶の中にヤヨちゃんが在り続ける限り、僕はうれしくて幸せで、苦しくて、僕は僕で在り続ける。
それが偽物の僕だったとしても。
手のひらで新しく掴んでも掴んでも、雪はすぐに溶けて、ただ僕の手袋を重たくしていく。痛みだけを残して消えていく。
涙が滲む。
それはきっと、この痛みのせいだ。
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