「槙野だったら、何味にする?」
二時間目の授業が終わって、ヤヨちゃんが体操着の入ったバッグを持って、僕の席に来た。

「槙野、私、着替えに…」

「んー、ごめん。僕は保健室。」

「えー、やっぱり?そろそろ出ないとヤバいんじゃない。」

「平気だよ。雨が降ったらちゃんとするから。」

「なーに意地になってんの。いいじゃん別に、一緒じゃなくったって…」

まだ何か言いたげなヤヨちゃんにじゃあねって手を振って僕は教室を出た。いくらヤヨちゃんの言うことだからってこればっかりは聞いてあげられない。

保健室に行く前に職員室に寄って、体育教師に欠席の許可を取る。
「お前は…またか…。」と呆れながらもそれ以上は何も言わないし、僕の「貧血」をもう信じてもいないだろう。この体育教師の適当なところ、けっこう好きだから授業には参加したいけれど、雨が降っていないからしょうがない。

許可も取れて、貧血のくせに軽い足取りで保健室に向かう。保健室のドアノブには「外出中」のプレートが掛けられている。教室と同じ、スライド式のドアを開けると確かに保健室の先生は居なくて、シンとしている。
保健室には多少の薬品も置いてあるし、施錠もしないでいいのかなとか、もし本当に具合いの悪い人が来たらどうするんだろうとか思ったけれど、僕は仮病だからまあいいかって思いながら勝手にベッドに寝転んだ。

冷房のひんやりが心地よい。教室にも冷房は付いているけれど、教室の空調は強すぎる。さすが、保健室は体のことがよく考えられている。
なんて、なんにも分かんないくせに思った。しかも仮病のくせに。
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