「槙野だったら、何味にする?」
仰向けになって、薄いブランケットをおへその辺りまでかける。冬はもう少しだけ厚めの掛け布団だった。シーツや枕カバーとおんなじ、真っ白の、なんて思いながら目を閉じる。
遠くから聴こえてくる楽器の音色、生徒の笑い声、誰かが保健室の前を通った足音。耳障りじゃない程度の音。梅雨の湿気を忘れさせてくれる心地よい空調。
今日も逃げた、弱い僕。

足並みを揃えることが出来なくて、自分だけが取り残されたみたいな空間だ。こんなに自己嫌悪になるんなら「我慢」すればいいんだけど、体育でサッカーやバドミントンをしたくらいで解決できることじゃない。

サッカーをしてもバドミントンをしても、体育の授業が終わっても、四時間目も明日も明後日も三年生になっても僕はヤヨちゃんが好きで、ヤヨちゃんは涼太が好きで、僕は僕のままだろうから。

目を閉じてうとうとし始めた時、ガラガラっと保健室のドアが開いて誰かが入ってくる気配がした。先生が戻ってきたのかも。ベッド使ってますって言わなきゃ。上半身を起こして、閉めていたカーテンに手をかける。

「すみませーん。先生、居ますか。」

あれ、この声。

「涼太?」
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