「槙野だったら、何味にする?」
カーテンから顔を覗かせた僕に、涼太も驚いている。

「あれ?槙野、欠席?」

僕が居ないことに気づいていなかったのか。まあ、そりゃそうか。

「うん、ちょっと。体調不良ってやつ。」

涼太は嘘つけと笑いながら、保健室を見回した。

「先生なら居ないよ。外出中ってプレート掛かってたでしょ。」

「え?そっか。見てなかった。」

あんなに手元に掛かっているのに、涼太らしいと思った。

「どうしたの?」

「あー、サッカーでやっちゃって。」

涼太は自分の膝を指差す。膝小僧が擦りむけて、血が出ている。運動場の砂が混じっていて、菌が入らないか心配になる。

「あーあ。派手にスライディングでもした?ちょっと待ってて。」

僕はベッドから立ち上がって、座りなよと椅子に涼太を促した。いくつかの薬品やピンセットなんかが仕舞ってある棚から救急箱とコットンを取り出す。

「いいのかよ。勝手に。」

「常連だからね。」

「ヤな常連だな。」

涼太の向かいの椅子、いつもは保健室の先生が座っている、背もたれがついてクルクル回るタイプの椅子に座った。救急箱から消毒液を取り出してコットンに湿らせて、僕の仮病癖に苦笑いしている涼太の膝小僧にそっと充てた。

「…っ」

涼太の眉間に皺が寄る。

「痛み、弱いんだね。」

「いやこれは誰でもだろ。」

大きめの絆創膏を二枚、膝小僧に貼った。擦りむいているところが大きいだけで出血はそんなにしていない。すぐに治るだろう。

涼太が膝をさすりながらありがとうと言った。

「槙野に手当てしてもらうとか笑えるな。」

「ね。こういうのはヤヨちゃんが似合うよね。」

笑う僕の目を見て、涼太は急に真剣な目をした。

「関係ねぇよ。ヤヨでも槙野でも。」

「ん。でも、ヤヨちゃんがしたかったと思うよ。知ったら絶対に嫉妬する。」

僕は涼太から目を逸らして救急箱を片付けた。
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